■パリに居る間に2014年も下半期に突入、このページの更新作業も随分久しぶりだなと思ったのも道理、7月もはや12日目に入っての2014年下半期初の更新です。
この間には、集団的自衛権の行使容認を閣議決定するという歴史的な転換点があり、東京古書会館では明治古典会七夕古書大入札会が開催され、サッカーワールドカップではブラジルが想定外の惨敗を喫し、日本列島には超大型台風が襲来、小店店主の自宅ではパリから帰った直後より台所の水漏れに見舞われるなど、地球規模から実につまらない極私的事件に至るまで、何かしら考えさせられる色々なことがありました。
直近では、台風で被害に合われた方などもいらっしゃるのかも知れません。心よりお見舞い申し上げる次第です。
私事に戻れば、今週より店は従来の火・木・土曜日の営業に復し、また、インターネットでのお取引やお問い合わせについても従来通りに対応させていただいております。8月には夏休みなどもはさむことになりますが、それまでの間は通常営業いたしますので、またのお付き合いをよろしくお願い申し上げます。
■パリ滞在中の様子は、Facebookの「日月堂」のページにアップいたしましたので、ご興味がある方は「ここ」をクリックしてご覧下さい。今回、オペラ・ガルニエで観ることのできたバレエ・スエドワの展覧会は願ってもいない収穫でした。スエドワ展の写真もFacebookにアップしております。
■さて、わざわざ出掛けたパリで何を買ってきたのか…と云いますと。例年2月に行く古紙市のシーズンとは勝手が違って、買えたものはごくわずかなものにとどまりました。大別すると、デザイン・印刷系の本・印刷物と、芸術系の本・冊子との2系統に整理できそうです。
このうち、今週はデザイン・印刷系の本と印刷物からその一部を。
画像1点目はパリの組版職人組合が『Bulletin official des Cours professionnels』と題して発行した機関誌の特別号。要は、活版一冊の時代のプロの組版職人向けに、印刷物-とくに印刷物の扉やレターヘッド、ショップカードなどの端物印刷物-の模範的なデザイン例を多数集めて発行した機関誌であり、当品に限って云えば、折しもアール・デコ博と呼ばれた1925年パリ万博の年に発行されたものだけあって、デザイン見本の部分は見事なほどのアール・デコデザインのオンパレード。多くは2色、中には3色(=2版~3版)を使って刷られた印刷物現物で示されるお手本は、「おみごと!」という言葉しか浮かんでこない多彩かつ完成度の高いものです。
Abebooksなど海外の検索サイトで同様のものが出てくるようですが、日本では市場でもまず目にすることのないレアアイテム。小店での販売価格はどうしてもそう安く設定することができませんが、内容的には充分それだけの価値をもつもの……とは云え、海外検索サイトなどで安く出ているのを見つけたら「買い」ですよ!
もちろん、小店のでしたら大喜びで販売いたしますが、まだしばらくは持っていてもいいかなと思える1冊です。
■パリに行けば必ずと云っていいほど買って帰ってきていたアール・デコ期の白粉・石鹸を、今回は「辛うじて」という感じで蚤の市から掘り出してきました。パリの蚤の市からこの手のものがどんどん減っているような印象があり、とりあえず目についたもの全部を買ってきてもこれだけというのは少々心細い話ではありますが…。
白粉用のパフをモチーフに金使い&エンボスによるデザイン-手掛けたのはかのルネ・ラリック!-のコティの白粉を筆頭に、同時期の白粉・高級石鹸全8点。未使用品も多く、文字通り往時の香りを伝えてくれる貴重品です。
あ。そうそう。戦前の銀座ガイド本の中でも有名な安藤更生著『銀座細見』の装丁は、このラリックによる白粉のパッケージをパクッたもので、ご興味がある方は2009年11月7日付の小店HP→こちらをご覧下さい。いやはやそれはもうまるでそのままでびっくり。
■パリでドイツの本を買ったのは、もしかしたら初めてだったかも知れません。1925年から29年を経て、グラフィック・デザインの分野で起こった変化が、この2冊を並べてみるとよく分かります。1954年にドイツのシュツットガルトで発行されたグラフィック・デザイン年鑑『Graphischer Almanach』。
こちらもまた、レターヘッド、文書フォーマット、フライヤー、メニューの表紙、ショップカードなどの端物印刷における優秀デザインを、印刷物現物を綴じ込む方式で1冊にまとめたものです。格調の高い旧来のデザインから、ミッドセンチュリー・モダンへの移行を、綴じ込まれた紙の物量の違いで示されている - 圧倒的に後者が多い-という点も見どころのひとつ。
こちらも海外の検索サイトなどではまだ安く見つかる場合もあるようですので、小店でのご購入に拘らず、とくにグラフィック・デザインにご興味のある方はご入手されることをお勧めいたします。
■デザイン系ではこの他、1938年発行の『Le Courrier graphique』特別号2冊、アール・デコ期の香水のラベル類が小さな袋でひとつ分などをパリから連れ帰り、この辺りはできれば本日より店でご紹介できればと思っています。
この他、日本の市場からは戦前の『婦人倶楽部』『婦人之友』約30冊、雑誌『飛行少年』等戦時下戦闘機関係資料8冊、戦前の写真ネガ他写真関係1箱が、明日には店に入荷いたします。
■来週はパリからの到着品より、芸術系の本・冊子をご紹介いたします。こちらの店頭入荷についてはいましばらくお待ち下さい。
■何はともあれ当面の営業スケジュールに関するお知らせです。
来週6月25日(水)の早朝に東京を発ち、一週間ばかりパリまで出掛けてまいります。帰国は7月3日(木)の夕刻。
帰って来たと思ったら、今度は7月4日より3日間にわたり開催される毎年恒例の「明治古典会 七夕 古書大入札会」のため、7月4日(金)・5日(土)の両日は、店には夕方以降、可能であれば立ち寄る程度といった感じになりそうです。
小店店主、パリ行きは実に3年半ぶり。今回、いつもの古紙市の時期ではないこともあって、行く前にやっておかねばならない・調べておきたい・用意すべき「あれ」や「これ」やが完全に後手後手にまわっており、いよいよますます慌てております。この分だと出発日前日に店を開けるのは難しいと思われ ……… 結果、店、インターネットとも、6月22日(月)より7月7日(月)までお休みをいただき、本格的な営業再開は7月8日(火)からとさせていただきます。
今回、とくに「七夕 古書大入札会」とのからみもあり、この間のご連絡について申し上げておきますと ――
①6月23日(月)、24日(火)はメールまたは携帯電話の方までお願いいたします。
②6月25日(水)より7月3日(木)まではメールを含め、連絡がつかなくなります。
③7月4日(金)・5日(土)の両日については、東京古書03-3293-0161までお電話の上、日月堂をお呼び出しいただくか、店の留守番電話にご連絡先を残しておいていただければ、こちらから折り返しご連絡申し上げます。
尚、「七夕 古書大入札会」では、古書組合加盟の古書店 - 及ばすながら小店も - が、お客さまのご希望のお品物にご予算等ご相談の上、代理入札を承ります。近日中にウェブサイト上で出品全商品と入札最低価格が公開されますので、ご興味のある方は一度ご高覧下さい。サイトのアドレスは右の通りとなっております。http://meijikotenkai.com/2014/
当HPの次回更新は7月11日~14日頃を予定しております。長らくお休みを頂戴することとなりますが、仕入れに東奔西走してまいる所存、どうか再開後の小店を、よろしくお願いいたします。
■長いお休みの直前に、新着品の更新をしたところで意味があるのかどうなのか分かりませんが、ともかく小店にとっては大事な仕事のひとつなんで。今週の新着品のご案内を一席。
あくまで商売のために買う - 市場は買い付けの場ですから、当然、個人の物欲よりも優先されるのは商売であってしかるべき。だがしかし、年に何度かは、「売れても売れなくても もーなんでもいいから買うだもん。だって欲しいんだも~ん。」という、商売を度外視した、というよりも、正しくは自分の物欲に負けた云わば「自爆」のような落札、という事態が出来するのですが、今週の1点目はそんな「自爆物件」。あ。物件という言葉もお似合い! な『茶室起し絵図』。和本仕立ての解説書1冊と、題箋を貼ったタトウ紙に1点ずつ包まれた「茶室起し絵図」本体40点超がまとまって市場に出てきたのを落札しました。
利休に始まる超有名茶人考案による茶室を紙の模型に仕立ててしまったようなもので、タトウ紙から取り出してパタパタと組み立てれば、あれよという間に実際の茶室の間取りから内部の設えまで、その構造が実寸縮尺版として一発で把握できるという優れモノ。必要な部分にはこと細かに尺寸まで書き入れられていますので、「急に茶室建てろなんて云わたって無理ムリ。」なんて大工さんでも、これさえあれば建てることができそうです。こんな茶室を立てたいという施主の希望を正確に大工さんに伝え、大工さん同士もまた、共通の理解に立つための情報共有ツール、つまり、メディアとしての役割を担うものだったようです。
今回、入荷したものは、どうやら江戸後期に成立していたものを昭和戦前に復刻したもののようですが、いずれも元版を非常に忠実に写しているようです。
画像はつくりがシンプルな利休の一畳半で、この他、利休の二畳や三畳、宗旦、仙叟、不白、有楽など高名茶人考案によるものを中心に、不審庵、妙喜庵から、雪隠(せっちん)、待合(まちあい)など部分をまでを含んでいます。
それほど厚くない紙の切れ目に、共紙の爪を差し込むことで組み上げていくもので、組立には細心の注意が要され、折角「だって欲しいんだも~ん。」と落札した茶室起し図ですが、実際手にしてみればおっそろしく繊細でとてもじゃないけど組み立てられるようなものではございません。それが出来るのは、お買い上げ下さったお客さまだけ。ううむ。私に遊ばせてくれないなんて。そんなとこまでよくできていたとは……。
* 6/21 追記 : 奥付に「数奇屋おこし絵図附」と記された冊子『すき屋之沿革』は38P、起し絵図は58点ありました。当面は一括での販売を優先いたします。
また、この冊子によれば発行は昭和6(1931)年、東京の「三昧社」とい、ういかにもそれらしい名前の版元からの出版でした。
■2点目は、部分的に綿と化しつつあった和紙の台帳に貼られていた必要箇所だけを抜き出し、不肖・日月堂が仕立て直した古い小紋裂の貼り込み帖です。京都の染元の旧蔵品と見られ、極微芸、常磐染、嶋染、二枚形などの分類名のもと、6.5×5cmに切り揃えられた生地現物216点を貼り込んであります。時代としては明治の早い時期までのものを集めている印象があります。
常盤染や二枚形の図案と色の組み合わせ、極微芸というだけに実にこまかな点のくりぬきで図案を描きだす超絶技法まで、日本人の私が見てもその技と美的感覚にはただもう感服するばかりでした。
それにしても、こういうものを買って下さるのは決まって外国の方。外国の方たちの方がよほど「美しい日本」を理解している上に、実際に「日本を取り戻す」ことまでして下さっているというわけです。何もかも 何だかとほほな日本。いつのまにやら集団安全保障まで出てきてるし。
■なあーんて偉そうなことを云った舌の根も乾かぬうちに何ですが、タイトルの『波●婦久佐』の●印の部分の文字が読めない。う、うぐ。音読は「はなふくさ」に違いないのですが。
試みに、「日本の古本屋」で検索してみると、『波難婦久佐』『波能婦久佐』『波羅婦久佐』の3説あり、私の能力では確定的なことは云えませんが、とりあえず小店では『波難婦久佐』を採りたいと思います。
『波難婦久佐』は木版刷り図案集の名門出版社・芸艸堂が発行した更紗生地のデザイン集。全点多色刷り木版による上下巻2冊組、今回入荷したのは明治36年の再版です。
明治時代、更紗の図案集は結構さまざまなものが出版されていますが、この『波難婦久佐』はよく売れたのか、いまでも比較的よく目にするものですが、1Pに多種を並べた際の過不足のないレイアウトの妙、刷り色の深さ、多くの更紗図案から収録する図案を選び出したセンスなど、取り柄の多い図案集だと思います。
実はこのあたり、パリに持って行って売れないかと思い用意を進めていたのですが、商品の絞り込みを始めてみるとやはり自力で売りたくなってしまったものたち。これらの品物は明日より店出勤、明後日からは早速店で留守番を務めてもらうことになりそうです。
かわいい子には留守番させよ。おばさんは荒野を目指す。いいのかそれで。それはともかく。行ってまいります!
■ワールドカップがスタートして、ますますお客さまの足が遠のきそうな小店ですが、こういう時に限って続々と新着品が入荷しております。間が悪いのは小店の得意技。うう。
①1950年にアメリカで発刊、ハイクオリティ・マガジンとして高く評価されながら、あまりに凝りに凝った編集が仇となって長続きしなかったとも評される『Flair』全12冊うち10冊 ②明治の日本に海外名勝風景を伝えた立体写真86点(彩色写真多数の他、日英博覧会などを含む)③多くは海外のパクリと思われるだけになかなかハイセンスなデザインが多い『現代の一般商業図案』④家紋製版用のシルクスクリーン(家紋を白ヌキにした絹布を木枠に張り渡したもの)→ ①から④は21日午後、店に到着の予定。
⑤遠くフランスの地で、日本での主要なニュースや同地での催しなどを滞仏邦人に伝えたガリ版刷りの日刊紙『日仏通信』が昭和11年の96号から昭和13年の522号まで揃って入荷。レアです。 ⑥これと同時期に何らかの目的で作成された、イタリア・ファシスト党やマルクス主義についての孔版刷りマル秘文書4点 ⑦その少し前、フランスのアール・デコ最盛期の店や建物のファサード、店頭装飾の写真を集め、未綴じのプレートに収めた『Nouvelles Devantures et Agencements De Magasins 4eme Serie』 ⑧鹿鳴館で舞踏会が開かれ始めたのと同じ頃に起こった「国語国字改良運動」。それを背景に生まれた『ローマ字雑誌』が創刊号からおよそ60号分 ⑨昭和51年・紫紅社より限定300部が発行された『裂地集 型染』(型染裂現物83点貼り込み!) ⑩上村六郎の序文付の『民芸縞』帙入りの縞織布現物50点(おそらくは奥付の添付された外箱がないために詳細不明) ⑪名物茶碗や香合などの実に大味な描写がむしろ素敵な『茶道宝鑑』全木版刷帙入り8冊揃 → ⑤から⑪は店に入荷済で、すでに各所に散らばって、みなさまのご来店をお待ちいたしておりますのですが、これで全部ご紹介できたわけではなく、ここからがやっと今週の新着品。
選んだのは、集団的自衛権でいよいよ公明党が容認する可能性が浮上してきた本日、歴史はその痕跡を必ずどこかに残しちゃうんだもんねという教訓をこめて、太平洋戦争下、南方を中心とした植民地での世論の懐柔を目論んで発行された対外広報雑誌です。
■大日本帝国(!)発行のプロパガンダ誌としては、東方社(原弘、木村伊兵衛他)の『FRONT』と日本工房(名取洋之助、河野鷹思他)の『NIPPON』とが表現上での双璧をなしていますが、これらの2誌に政治的社会的上層部へアプローチしようとの狙いが見て取れるのに対して、読者対象も記事の内容ももう少し一般的なところに落としこんで発行が続けられていたのが大阪毎日新聞社の『SAKURA』です。
今回入荷したのは昭和17(1942)年=第4巻の7号から12号と昭和19(1944)年=第6巻の1号と2号の合計8冊。状態はいずれもかなり良いものです。
当時の侵略地の関係から、主要なテキストは英語だけでなく中国語を併記し、さらに、南方諸国との関係で訴求が必要な話題については日本語のカタカナが添えられるというトライリンガル雑誌。「プロパガンダ=形態としてのグラフ雑誌=表現としてのフォトモンタージュ」の方程式に則りながら、「ビルマ コクミン ヘ オクル ウタ」「ヘイタイサン ト コドモタチ」といったカタカナの日本語で、感情的・感傷的な言辞に終始する様は、過日、集団的自衛権を巡って民主党党首と交えた論戦で、問題の本質には触れないまま現総理が力説したとかいう言葉とよく似た性格のものに思えてなりません。
『SAKURA』より…「センソゥ オ スルトキ ワ ニッポン ノ ヘイタイサン ワ アラシ ノ ヨゥニ ハゲシク ツヨイ ケレド イツモ ワ ソヨカゼ ノ ヨゥ ニ ヤサシイ オヂサンタチ デス。」 cf. 「自衛隊 ノ 諸君 ニ 愛スル 家族ガ イルコト オ ワタクシ ワ シツテイル。」
■「自衛隊最高指揮官として、重さと責任をかみしめている」と語るのを見ると、「気分はすでにこの方と同じ?」とちょっと聞いてみたくなってしまったその東條英機が表紙を飾るこちらはシンガポール語によるプロパガンダ誌『NIPPON JANG MOELIA』。
昭和17(1942)年にジャパン・タイムス社が発行した当誌は非売品とされており、もちろん小店にとってこれが初見。全頁アート紙使い、全体の1/3に2色刷りが使われていて、当時めぐまれていたはずの対外広報誌のひとつ『SAKURA』と比べてももう少し贅沢。定期刊行物とは違って、『NIPPON JANG MOELIA』が試験的に発行されたものだったり、ある特定の目的のために1冊だけつくられたものだったりする可能性を示すものではないかと推測しています。市場で、とくに雑誌に詳しい同業諸先輩でさえ初見と話されていたのとも、そう考えると辻褄があいます。「今回を逃すと二度はない」と自分に言い聞かせての入札で、近年もっとも改札結果が出るまで胃が痛んだ1冊です。
さて、今週、あまりに重なる仕事にクタビれて、放心状態で眺めていたディスプレイからふと目にとまったのが「ふたつの太平洋戦争」という一文でした。ここに書かれている当時の日本を、ちょうどいまの北朝鮮と重ねてみると、アメリカの側の見方がよく理解できるのではないかと思います。非常に興味深い指摘が多い文章だったことを書き添えておきたいと思います。
さて、25日からはパリ。来週はしっかり働いとかないとひじょーにまずいと店主かなりあわてているもよう。「はたらかんかいわれ。って感じ? 」「はいそーです。」