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印刷解体vol.2―失われゆく活版、その「技術」の魅力

会期:2005年9月30日(金)~10月17日(月) 
会場:渋谷PARCO・ロゴスギャラリー [解体シリーズ]









昨年、日本各地からたくさんの方にご来場いただき―ホントにビックリ―ました『印刷解体』展の第二弾が、ようやく開催にこぎつけようとしています。

実のところ、昨年は反響などほとんど期待せず、企画としては失敗だったかと幕を開ける直前まで、なかなかスリリングな気分を味わいました(このあたりのことについては、10月上旬に発行される未来社の機関誌『未来』に掲載予定の拙文をご覧いただければ幸いです)。それが誤算につぐ誤算、今年、第二弾開催となりましたのも、ひとえにご興味をもってご紹介くださった方々、そして実際にご来場くださった多くのみなさまのお陰によるものです。改めまして心より感謝申し上げます。

二回目になる今年。近代以来、長年にわたって情報伝達や文化の重要な部分を担ってきた印刷をめぐり、大きな変動期を迎えたいま、もう一度これを見直そうという基本姿勢に変わりはありません(パルコ・アート・コムのロゴスギャラリーの項、アーカイブから昨年9月の「印刷解体」までご参照ください)。

実際に企画の柱となるのは活字を中心とした販売ですが、さらに一人でも多くの方に関心をもっていただくためには一体何を付加すればいいのか。そんなことを考えながら、準備は今年4月に始まりました。

活字を、プロ仕様の並びのままでロゴスギャラリーに移して販売してみると、この並びは一体何を基準としているのか、このなかから職人さんたちは実際どれくらいのスピードで文字が拾えるのか。こちらの頭が下がるぼど根気よく活字とにらめっこして拾い、実際におもとめくださったみなさまから最も多く質問が寄せられたのがこの点でした。伝票や自叙伝の一部など、用をなさない上にかなり重たい組版のデッドストックが、会期初日からどんどん売れていくのには、品物にしてみたこちらの方が無責任にも驚かされました。

考えてみると、文字を拾う=文選も、版を組み上げる=植字も、印刷にまつわる「仕事」というのは、一般には全くといっていいほど目にする機会はありません。ならば、これを会場でやってしまおうではないか―こうしてまた、今年も無責任が頭をもたげ、この無責任が第二弾組み立ての出発点となりました。

“まあ何とかなるでしょう”というワケで。

昨年、写植でお世話になったイトウさんから、「活字を手作業で彫る職人さんがいる」と伺ったのも、確か今年4月の頃のことだったと記憶します。お話だけでは想像もつかず、早速ご紹介を受けてお目にかかりました。活字、というのは正しくは活字鋳造の元となる母型(=字母)のそのまた元になる活字の原型のことであり、つまりは鉛の軸にさまざま書体の反転文字を刻み出す技術のことで。実際に拝見すると初号からごくごく小さな活字まで下書きもなし、そこらへんにありそうな彫刻刀を使って文字を切り出していきます。ご本人は80歳を過ぎてまだまだ矍鑠たるおじいさん、人に乞われて「ほぼ半世紀ぶりに道具を手にしてみたら、出来ちゃいましてね。こりゃ自分でも驚いたっ」なんてことをおっしゃる。漢字文化圏に特有とされるこの技術、いまでは継承者は国内でもごく少数。これも是非、多くの方にご覧いただきたい。迎える側では“まあ何とかなるだろう”というワケで実演決定。5月半ばのことでした。

店にいらっしゃるお客様で、ポストカードを作っていらっしゃるフジワラさんは、確か卓上活版印刷機「アダナ」をお持ちで、私自身、一度拝見してみたいと思っていました。ここまで実演を入れるのであれば、ここは是非、フジワラさんにも会場で「アダナ」印刷の実演をお願いしたい―お客さまをお使い立てする。これ、日月堂の得意ワザ。いや、本当はそんなことやっていてはダメなんですけど―図々しくもお願いし、ご自身のポストカード・ブランド「7days cards」25周年のご多忙のところを、拝み倒しての実演と相成りました。ゴールデンウィークの直後のことです。

昨年ご要望の多かった活版印刷の名刺については、お客様に充分ご納得いただける態勢という点でセミオーダーでは限界があることを感じていました。ならば今年はフルオーダー対応でいこうではないか。と、私が思っても仕方がないので、協力先を探し始めたのが6月半ば。本展で活字を入れてくださる印刷所からのご紹介で、活字の販売と端物印刷を手掛けておられる活字屋さんにお願いすることができ、これも何とか突破して7月上旬。

“まあ何とか、なったような気が…”ようやくこの時点でしてきました。

関係各位のご好意とご協力により―ちょっとだけ胸を張っていわせていただければ―今年は文選・植字ライブ、地金彫刻やポストカードの活版印刷の実演、活版印刷を知悉したアドバイザーによる名刺の受注会など、ごくごく限られた範囲ですが、しかしほとんど目にする機会のない技術や知識の一端を、会場でご覧いただけることになりました。実演ではご質問にお答えするなど、それぞれある程度ですが、お客様とのやりとりも可能です。

これらプログラムは下記の日程での開催となります。

・尚、「文選・植字ライブ」については、事前お申し込みが必要です。
 ご希望の方はロゴスギャラリーまでお電話で。
 定員になり次第、締め切らせていただきます。
・また、名刺受注会については、お時間をお待たせする場合がございます。
 予めご了承いただけますようお願い申し上げます。

9月30日(金) 
10:00~10:30 文選・植字ライブ

10月2日(日) 
10:30~12:30/15:00~17:00 地金彫刻実演

10月8日(土) 
14:00~14:30 文選・植字ライブ
16:00~18:00 活版印刷名刺受注会

10月9日(日) 
13:00~14:00 ポストカード印刷実演
15:00~16:00 ポストカード印刷実演

10月10日(月・祝) 
10:30~12:30/15:00~17:00 地金彫刻実演
10月14日(木) 18:00~20:00 活版印刷名刺受注会

やっとここまで。いやはや長い。

ですが、いましばらくお付き合いのほど。

肝心の販売について簡単に。活字、道具類は昨年より質量両面で拡充を図り、実際に使われた組版や紙型のデッドストックなど、一点ものも多数揃えることができました。

*価格はそれぞれ単価、あくまで中心価格帯です。また、変更される場合もございますので、個々の価格は必ず会場でご確認ください。

□活字バラ売り 本文組みに使われる5号活字など、級数・字種ともボリュームアップ、会場に持ち込むスダレケースは今回約150ケースに上ります。
初号(明朝・ゴシック)420円/1号(明朝)310円/2号(明朝)210円/4号(明朝)80円/12ポ(明朝)80円/5号以下の活字および約もの、クワタ等
量り売り10g=100円

□地金彫刻による種字 職人さんの手仕事により、一本一本、技と時間をかけて掘り出された「種字」を販売。一般には入手困難な品物です。 ¥6,000~18,000前後

□ぜい片つきの活字の軸 ぜい片とは、“活字鋳造の際、鋳型の鋳口のところで冷却した地金が、活字の脚部に付着して生じた不要の部分”。このぜい片がついたままで活字が形成されていない軸を販売いたします。活字鋳造の現場でなければ見られないもの。地金の配合と鋳造法の異なる数種を用意します。 \300~

□字母=母型 活字を鋳造する際の型。真鍮製の字母を今年はバラとセットの両面から販売いたします。 バラ売り\850

□組版デッドストック もう残っていないかと思われていたのが、出てきてくれました。今年は伝票等罫線を組み込んだものが中心。それぞれ現品一点限りです。 ¥4,500~

□紙型デッドストック これもすでに在庫なしと想定していたのが、残っていました。在庫僅少、出てきた分の全てを販売いたします。 ¥800~

□新品の活字による「いろは」や漢数字のセットものも販売の予定。

□この他、銅板製写真版、見出し文字、木活字や連字など特殊活字各種、鋳型、罫線、ベース、昨年好調だった慣用句等を活字で組んだもの、なども販売いたします。

□ステッキ 6寸のものを中心に、新品、しかしデッドストックにつき在庫僅少のステッキ各種を販売。 \4,500~

□スダレケース、文選箱から罫線断裁機・削り機、植字台一式まで、活版印刷に関する用具・道具類も多数用意いたしました。

□『銀河鉄道の夜』より「印刷処」の章・全文
新たに版を組み、組版、紙型、鉛版(メッキあり、メッキありの2種)を展示します。同時に組版から鉛版まで、ご希望のお品物は受注販売いたします。詳しくは会場まで。

□築地活版製造所・江川活版製造所 明治期・電胎版見本帖
切り抜き、落丁のため、ページ毎にばらしての販売となります。

□この他、印刷年鑑、印刷見本集、タイポグラフィ年鑑等、印刷関係・グラフィック関係の和洋古書から、化粧品の包装紙など贅を凝らした、切手や証券など技術の粋を集めた、或いはキリム文字による質素ななかにも工夫の見られる…さまざま紙モノも多数出品。裏面の能書きに使われるタイポグラフィも見事なフランス・製薬会社のDM(1960年代中心、¥300~)は約800点を一挙に放出いたします。

□ご希望の多い洋紙のデッドストックは数種類、それぞれごく少数ですが、印刷所から掘り出してきました。在庫限りの早い者勝ちとなります。

再生産の可能性の低いこうした商品は、今後、量が減ることはあっても増えることは残念ながらなさそうです。一つでも多くの品物が、多くの方の手を経て、何らかの記憶を次の世代に伝えていくきっかけとなってくれればと願います。

今年もまた、みなさまのご来場を心よりお待ちいたしております。