■追記 : 下記の予定を変更し、2月15日(土)は荒天のため店を臨時休業いたします。大変申し訳ございませんが、ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
■とうてい東京とは思えない窓外の景色。半世紀に一度級の雪景色を、まさか二週続けて眺めることになろうとは。明日は明日で強風と雨という、商売からするとあんまりな予報も出ています。明日、店は営業する予定でおりますが、万一の可能性も充分ございますので、ご来店をお考えの場合は、12時以降、必ず一度お電話で在席しているかどうかご確認下さい。03-3400-0327までよろしくお願いいたします。どのみち足元が悪いこと必定です。外出の際にはみなさまどうかくれぐれもご注意下さい。
■今週は明治時代の地図と地誌関係の文献9点が、明日、店に入ります。
最初の画像は浅野明道訳著・鬼頭道恭図画『萬国詳図 東半球』(明治12年=1879年 初版)。
広げると縦50cm・横49cm程、おそらくは銅版に彩色を施したもので、時代からして当然ではありますが、樺太の下半分も台湾も朝鮮半島も、まだ他国として示されています。
漢字で標記されたアフリカ諸国・中東諸国などは何やらお伽噺の国めいて、架空の地図のようにも見えてきます。海の向こうの未知の世界を、当時の日本人は一体どんな気持ちで眺めていたのでしょうか。折り畳めば19cm×12.5cmに収まる世界の東半分の図です。
■画像2点目は上田貞治郎纂訳『小学用地図 萬国之部』。表紙と裏表紙に厚紙を使った典型的な明治の洋装本=ボール表紙の本で表紙の図版は銅版画、明治18年=1885年に発行された初版です。
本のサイズは19.5×16.5cmほど。地球、亜細亜、亜弗利加、欧羅巴、北亜米利加、南亜米利加、阿亜尼亜洲(オセアニア)の7図を、いずれも銅版彩色・片面刷りして収めています。巻頭の「地球」の図は、画像でご覧いただける通り、そのままでは本文頁に収まらないサイズで、上の方に世界の大河、下の方に世界の高峰を図示するなど、芸の細かいところを見せてくれます。
■残る7点は次の通りです。
① 亜米利加国コロ子ル氏撰・日本 西村恒方訳『萬国地理訓蒙』明治5年=1872年 和本 木版多色刷地図入り ② 小林弘貞著『萬国新地図 全』 明治34年=1901年 軽装 石版多色刷地図帳 ③ 谷口政徳著『受験応用 萬国小地誌 全』明治24年=1891年 軽装 挿画入り参考書 ④ 森琴石編輯『日本地誌略附図』 明治10年=1877年 上製小型本 片面刷・銅版彩色図集(北海道・千島、琉球含む) ⑤ 星唯清著『大日本全図 県名改正』 明治9年=1876年 片面刷・銅版彩色大判地図 ⑥ 廣田巌麿著『日本地誌略附図 巻四 北海道・琉球』 明治10年=1877年 和本 木版刷 詳細地図集 ⑦ 土橋荘著『下等小学 日本地誌略図問答諳射巻二 東山道・北陸道之部』 明治9年=1876年 和本 木版多色刷図集
山ひとつ越えた向こうがよその国だった鎖国の時代から、何も見えない海の向こうに他国の存在を見るようになった明治時代へ。日本人が新たな世界観を確立していくその最初の頃、つまり江戸末から明治の初期に日本で流布していた世界地図というのを、いつか一度は扱ってみたいと思っていただけに、今回のようにまとまって落札できたのは幸いでした。
日本がその後の歴史の中で行った、言葉通りの版図のかき変えについて、そして、いま再び近隣諸国との間での火種をまたしても抱えてしまうに至りそうな現状を考える上で、多くの意味を持っているに違いない、近代の歴史の出発点に位置する資料です。
■装丁に施された表紙のヴェラム革が、そのまま見事なオブジェのような佇まいを見せるのを、折角なので残しておこうというのが今週の3点目。コブデン・サンダーソンが主宰・運営していたプライヴェート・プレス、ダブス・プレスが1906年=明治39年に限定300部を発行した『LONDON』。副題「A Paper read at a Meeting of the Art Workers Guild,by T.J.Cobden-Sanderson March 6 1891」とあるように、内容はコブデン・サンダーソンが1891年に工芸職人組合で行った講演録であり、ダブス・プレスの顧客に贈呈されたものだと云います。いかにもコブデン・サンダーソンらしく一切の装飾を排し、そっけないほどシンプルな組版の本文8ページには、しかし、欧文組版かくあるべしという基本の全てが詰まっているのだとか。佇まいから組版まで、どこまでも控えめで渋い。飾りや挿絵や色彩や、そうしたものはもういいかなという域に達してしまった、相当な玄人筋に好まれる一冊です。売れる目処なし。う。
■店を休んだ土曜日、雪が周囲の風景を一変させるのを窓外に認めながら一日を自宅で過ごしました。即売会の準備で年末年始を追われるように過ごした身には、思いがけなくやってきた休暇となりました。
がしかし、何度も云うようですが動きを止めると途端に呼吸が止まるマグロ同様、そうそう止まってばかりいるわけにもいきません。よく働く。それだけが取り柄の小店であります。とりあえず今週の新着品です。
あ。明日は旗日ですが、店は通常営業いたします。土曜日の雪のようなことがない限り、当面、店は火・木・土曜日で営業いたします。よく働く? 週3日???
■市場で。フランスの演劇専門雑誌の合本の表紙を開いたすぐの見開きのところに挟まっていたのがこの紙ペラ。『NEUVIEME SAISON RUSSE (MAI-JUIN 1914)avec le la Troupe de BALLETS RUSSES de M. SERGE DE DIAGHILEW』と題されたバレエ・リュス - 「ディアギレフのバレエ・リュス」 - の前売り案内です。いまからちょうど100年前、1914年の春の第9シーズンに向け、チケット前売りにための公演案内、料金などを掲載したもので、このペラ1枚のために雑誌の合本を落札してしまったという代物。
二つに折った状態がA4の天地を少し縮めたサイズ。中面と併せ4面となる簡易な印刷物で、両面ともスミと赤の2色を使って印刷されてはいるものの、図版はなく文字のみ。ですが、前売り開始の日時、場所、そしてとくに、前売り料金がこまかく記載されているのは貴重ではないかと思います。
このペラによると、最も高価なのがバルコニー席で、4演目を見ようとすると席料50フランに4演目分の観覧料200フランを合わせた250フラン。次いで高いのが1階の椅子席で、4演目観覧の場合、合計200フラン、2演目または3演目で160フラン。最も安価な6階ボックス席で110フランまたは85フランとなることが分かります。
この当時の1フランが一体何円にあたるのか?というのが気になってくるわけですが、困ったことにこれがよく分からない。とりあえず、1929年、パリで「日本館」を建設するために薩摩治郎八が出資した350万フランが現在の約10億円とされていることを根拠に、ざっくりと1フラン=300円と仮定すると、最も高額なバルコニー席が75,000円または60,000円、最も低額な6階の席でも33,000円か25,500円という試算となります。相当高かったと聞いてはいましたが、それにしてもやっぱり高い! タイムマシンで過去に遡れるとしたら、パリでバレエ・リュスを見るんだなんて気楽なことを考えていましたが、貧窮には事欠かないワタクシである限り、そんな夢想も見事、この紙つぶてによって粉砕されたという次第です。
尚、1914年、パリ・オペラ座で開催されたこの第9シーズンでは、9つのプログラムの上演が予告されていますが、いずれもフォーキンが振り付けた「ヨセフ物語」「金鶏」「ナイチンゲール」「ミダス」の4演目の初演を見ることになります。
■1914年、パリ公演の後、このプログラムはロンドンのドルリー・レーン劇場でも上演されます。この時の公演に少なくとも8回は足を運んだと見られる日本人が、当時、ロンドン大学に留学していた大田黒元雄であり、その大田黒が帰国後の大正6(1917)年、前の年に自ら設立した「音楽と文学社」から発行したのが『露西亜舞踊』というこの本です。クラシック音楽の素養もまだまだ地に着いていなかった極東の国で、ほとんど私家版に近いかたちで発行されたこの1冊の本は、「世界的にみても、これは最も早い時期に出版されたバレエ・リュス文献のひとつ」(『ディアギレフのバレエ・リュス展』P333 沼辺信一「ニジンスキーを見た日本人たち」)となっています。
大田黒には『露西亜舞踊』という同じタイトルの著書が、大正15年・第一書房から限定750で発行されていますが、限定750部の第一書房版に比べても、見かけることがずっと少ないのが当書。小店でも入荷はかれこれ10年ぶりになるでしょうか、バレエ・リュスをめぐる稀少かつ貴重な文献です。
■おかげさまで今週月曜日、「第30回 銀座 古書の市」を無事打ち上げ、しばらくぶりに店に戻ってまいりました。
会場では、思いがけないものにお客さまが目を留めて下さったり(!)、店主の「ぬかり」をご報告いただいたり(!!!)、何より多くの方と久方ぶりにお目にかかることができて、売り場に居るのが楽しい6日間となりました。
目録注文締切り段階では落ち込みが予想された成績も、幕を開けてみれば目標を達成、2014年も幸先のよいスタートを切ることができました。
ご多忙のところご来場下さいました皆様、ご注文・お買い上げ下さいました方々に、心より御礼申し上げます。本当に有難うございました!
■カーゴ4台の商品を銀座に運び、カーゴ4台半の商品とともに表参道に戻ってきました。
ううむ。なぜ、なぜにそこで? なぜ増えてるんだ??? ……………… と、それはともかく。
この荷物を何とかしないと、即売会が終わったとはいえないわけで、店内、ただいま表面上は平常を取り戻しておりますが、とりあえずあちらにこちらにと詰め込んでみた結果、キャビネットや棚には通常の1.5倍ほどの紙モノと1.2倍ほどの本とが充満した状態となっております。
来週からは店の営業も通常に復します。この機会に(充満?)是非、店にもお出掛け下さい。何卒よろしくお願い申し上げます。
■さすがに疲れてしまった今週、新着品のご案内はごく簡潔に。
1点目はパリの名門画廊ベルグリュアン(BERGGRUEN & CIE)が展覧会にあわせて発行した図録です。
1953年から1956年頃までのもので、縦25cm、横11.5cmという小体ながらこれがなかなかスゴいやつであります。
何がスゴいかと云って、収録されている図版の完成度がスゴい。『ピカソ デッサン 1903-1907』『クレー&カンディンスキー』『クレーの世界』など、表紙がムルー工房によるリトグラフ、中面図版をダニエル・ジャコメの工房が担当、写真版にポショワールを加えたいわゆるジャコメ版となっているという贅の凝らしようであります。
手工業的複製品の最後の一閃とでもいうべき綺羅星の如き図録、14種・15冊の入荷となりました。
かつてこのうちの何冊かを、何のこだわりもなくかっるぅ~く売ってしまった記憶がある小店店主、今回は記憶に留めるべくしっかり商品と向き合うのだと申しております。あ。エデュアールだとかスーポだとかテキストにも要注意だなんて、いまやっと気付いた模様。
■こちらは即売会前に棚に入れながら、図版でしっかりご紹介できないままきてしまった商品から、『世界旅行 萬国名所図会』全7巻および萬国地図付きの完揃い。
こちらも文庫本サイズという小さな形ではありますが、明治期日本の洋本に特徴的な厚紙に絵を刷りこんだボール表紙、三方マーブル染めという体裁で、銅版画の挿し絵が各ページ二分の一を占める本文は全頁片面刷りの袋綴じ。
中心1ヶ所を留められた円盤をまわすと、各国の時間が一目で分かる時計盤などの仕掛けもあって、こちらはこちらで手づくり感が一杯。銅版画の味わいも含め、デジタル化がいくら進んでも現物の魅力の色あせることのない、愛すべき書物のひとつだと思います。