■サクラサク―― お陰さまで、肋骨のヒビはずいぶん痛みも和らいで、こりゃやっぱり骨折より軽いわいと実感。ひきかえに、いまは湿布とコルセットに由来するかゆみと戦っておりますが、つまりはその程度。あたたかいお言葉はじめ、お寄せ下さいましたご厚情、本当に有難うございました。ともあれ先ずはご安心いただければと、ご報告申し上げる次第です。
肋骨と並んで、いや、それ以上にご心配をおかけしたスランプですが、今週の新着品は、スランプ脱出の糸口を思わせる一点もの、日本の伝統的な染物に関連する資料類です。
画像1点目はその主なものをピックアップして写したもので、内容は下記の通り。
① 蒐集された染色用型紙に番号をふり、年代、出所(地名・家名)、型を彫った職人または商店の名前、文様名、サイズを丹念に記録した『時代形明細控』 ②コレクションの台帳ともいえる『時代形明細控』のノンブルに沿って型紙の文様を墨で染めつけた『正徳年間より昭和初年迄 形紙摺合』(型染布総和本仕立、全507図所収) ③さらにこの『形紙摺合』から優品を選りすぐり巻子本(巻きものに)仕立てた1巻 ④小花文様の表、市松柄の裏ともに紙製で、薄い綿を入れた紙布製のちゃんちゃんこ ⑤荷札に年代や来歴の書きつけのある古布サンプル、という6点。
②にある「正徳年間より昭和初年迄」というのを西暦に置きかえると1710年代から1920年代初め、つまり、江戸中期から近代に至るおよそ200年間にわたる型紙が少なくとも一度は蒐集されたことを意味しており、確かに享保だとか寛政だとか文化文政安政宝暦等々江戸時代の元号がたくさん出てきてびっくりします。
画像2点目は、そうした時代にあって超モダンかつユニヴァーサルな意匠を、少しだけでもお目にかけるべく、②と③だけ取り出してみたものですが、そのセンス、お分かりいただけますでしょうか。
■今回の落札品にはこの他にも、左上、「営業日案内」で使っている画像の⑥『正藍 竺仙』と書かれた表紙のついている藍染布の見本帖、⑦詳細不明ながら、やはり比較的古い浴衣生地の見本帖とがあり、画像に写していないものとして ⑧中村重蔵の氏名印と落款 (落款は②の表紙に押されているのと同じ)がある『我国織染起原』25枚など手書原稿数種、⑨写真や新聞記事等スクラップブック数冊、などが含まれています。ちなみに⑥の「竺仙」というのは天保13年間創業、江戸染浴衣・江戸小紋の老舗として高名な呉服店屋さんの名前で、「正藍」は化学的薬品を使わず自然発酵させた藍によって染めたもののことです。
さて、この資料、一体どういった経緯で集められたものなのか?というと、それについてもちゃんと書かれておりまして、『時代形明細控』の扉の記述をほとんどそのまま次に引き写しますと ―― 「古代形蒐集に就て 蒐集の始めは明治40年の頃より大正十二年迄 相当数を集めしも大正十二年大震災に會ひ全部焼失 同十三年より再度蒐集今日に及ぶ 形に年号彫刻人商人の記入 記入なき形は模様、彫刻道具等又は糸入糸かけ技実の進化を調べん為と共に時代を調ぶるに●老ならんかと種類を揃へたるものなり」(●=1文字判読不能) …… 云々とあり、続けて「昭和33年3月文月記録ス 中村重蔵」とあります。つまり、これらを蒐集し整理し記録を残したのは中村重蔵という人。
ここまで来るといよいよ中村重蔵とは何者ゾ、ということになるわけですが、重蔵さんのお名前と「染」の一文字とで検索をして出てきたのが文化庁が運営するポータルサイト「文化遺産オンライン」のこちらのページ → 東京芸術大学の収蔵品に「中村重蔵氏(1888-1964)が蒐集,中重コレクションとして知られてきたものの一部」として型紙が収蔵されていることが分かりました。どうやら手元の資料と芸大の収蔵品とで同じ文様のものも少なくとも数点はあるようで、今回のこの資料、かなりのレベルのコレクションではないかと慌て始めた土曜日の未明であります。ああ。もう充分時遅し……。
■これらの新着品、実は競争相手とたった10円の差で、下札(=入札した価格の中でも最安値)で落札できたという奇跡のようにして入手が叶ったものでありまして、いやはやこれでスランプ脱出!日月堂店主の気分もサクラサク!!!--------ように思えたのもわずかに一瞬、出所を同じくする木版の図案集のことごとくを300円から1,000円内外の僅差で負けて負けて負け続け、さらに、これぞ本番というべき肝心の型紙、古い型紙文様見本帖の山に至っては、何とか相手の札を突き上げはしたものの上札を見ればほぼダブルスコアで届かないというそれはもうこれ以上ないくらい超チョー情けない結果に終わりました。
サクラサク。どころか咲く前に散る。花に嵐の例えそのままに、日月堂の3月が過ぎていこうとしています。スランプの闇は深く、消費税のハードルは高い………うぅ。
あ。辛うじて落札した縞帖は来週入荷いたします。
■←こちらの画像、すさまじく散らかった店内はいまからちょうど1週間前の小店。
通路から棚、引き出しの中まで、あまりに収拾のつかない状況に半ば癇癪を起し、こうなったらもういいもんね、というので散らかすだけ散らかした結果、即売会準備中でもここまでにはならないという混乱に陥りました。画像はこれも何かの記念というのでパチリと撮った1枚であります。
散らし放題の挙句、あとは片づけるだけとなると案外とコトは早く進み、現在は2点目の画像のように、ようやくそう恥ずかしくない状態まで復旧すると同時に、多少商品の入れ替えもいたしました。ああ~よかった。
がしかし。陥穽というもの、どこで口を開けているか分かったものではなく、はたまた人間、癇癪なんぞ起こすとロクなことはないようにできているのか、ここのところずっと続いていた力仕事と、その間にやってしまった打撲との相乗効果(?)により、左肋骨にヒビが入る結果と相成りました。おやおや。
店内の秩序回復と肋骨のヒビ。精神安定上、どちらがいいかと云えば店内の秩序回復の方が余程上!ということと、何より肋骨骨折は約半世紀に及ぶ人生において都合3度目、コルセットによる固定と湿布薬の手を借りたら、あとはただただ時間が傷をふさいでくれるのを待つだけというのも充分学習済、ということもあって、本人ほとんど普段通りに力仕事などもこなしているのではありますが、この、「怪我」、というのにはちょっと甘えてもいいかな。甘えちゃうもんね。ということで、今週はものすごく簡単に新着品のご案内を片付けることにさせていただきます。本当は、戦時下の女性の服装に関する面白い資料なども入荷しているのですが、こちらはまた来週。悪しからずお赦し下さいませ…。
■画像2点目は入れ替えを終えたキャビネットの上。中で新たに加わったのが向かって左から2点目、ピカソによるエリック・サティの肖像画(石版刷)を附録にしたフランスの雑誌『la revue musicale』(1924年5号)と、左端のジャン・コクトーの著・挿画による『OPIUM』(1930年版)。後者はアクリルケース入り改装本で、表紙は光沢のある黒の人工皮革。湿度の高い日本の風土には、「革を使うより」という判断もあり得ます。この2冊、久しぶりに店内にパリの空気を運んできてくれました。
■それだけでは寂しいので、もう半年ほどでしょうか小店に滞在を続けておられる和田三造編『配色総鑑』の6帖揃いものから数冊をひっぱり出し、並べてみたところ、これが不思議としっくり落ち着きます。カード式、ブックスタイル、折帖と、あの手この手で発行された『配色総鑑』は金儲けのタネとしてつくづくよくできるのでありますが、しかしそのお仕事、やはりかなりのレベルに達していることだけは間違いございません。改めて、きれいなものだと思いました。
■その向こう、一番奥に見えるのが1980年代に毎号150部限定で発行されたアーティスト・ブック『ART WORKS』。若手アーティストの作品現物を綴じ込んだもので、沼田元氣氏の連載もあります。詩人の藤富保男の直筆文&カットが表紙を飾る1冊も。アートから建築、サブカルまでもが教養とされた1980年代らしい雑誌です。
■明日からそのキャビネット上の仲間に加わりそうなのが『PICTURE CUBE』の2点。キューブの6面を使った絵合わせで、今回入荷したのは「乗り物」と「子どもの遊び」の2種類。どちらも上箱の貼り付けられた図案他に、5点の完成図があるべきところ、欠けがあること、「乗り物」は箱がないに等しく、「子どもの遊び」の方は少欠け有と状態に多少問題があるのが残念。但し、図版の様子から見て戦前のもの、とくに「子どもの遊び」については輸入品(もしくはその完全なパクリ)と見られます。
■これまでの「骨折」とは異なり、今回は「ヒビが入った」ということで現象としては軽度なわけですが、実際の痛みというのは折ろうがヒビだうがそう変わりない、ということが今回はじめて分かりました。お医者さんによると「治るのにかかる時間もほとんど同じでね、かかりますよぉ~~時間」ということで、こちらも骨折時と同じ1ヶ月を見込んでおります。
繰り返しになりますが ー あ。繰り返すからといって深読みしないでいただきたいのですが ー いずれにしても大した怪我ではありません。この間にもご蔵書のご整理やご処分をお考えの方には、どうかお気軽にご相談下さいませ。この場合は文字通りの「反骨」を貫きたい日月堂でございます …… ?
■年に一度は襲われるスランプ。実はいまがまさにそれでありまして、この数カ月、どうも買う気がしないし売れる気がしない。入札の場合、買う気がしないとまず間違いなく買えなくなります。買えなくなると新しい品物が入らないので店はますます売れなくなります。売れなくなると尚一層買う気が起こりません。買う気が起きないと…という絵に描いたような負のスパイラル。日月堂、たいへん、たぁ~いへんにマズい状況にはまりつつあります。
そんな中、かすかな希望が「これは買っておかないと…(汗)」と思ったものについては辛うじて落札できているということであり、先週、今週と1点目がそれにあたります。
今週は、洋画家・織田広喜の絵入り書簡。師である岡田謙三とその夫人に宛てて書かれたもので、岡田の渡米に伴い、絵の勉教のために住み込んでいた自由が丘の岡田宅から、中原実の家に移った当初に書かれたものです。岡田、織田、それぞれの年譜から、1950年のことであり、織田の文章から、岡田の渡米前・自由が丘の岡田宅に送られたものであることが伺われます。
この当時、織田は36歳。画家を志して上京して以来18年目と、それなりに修業を重ねていたはずですが、さまざまな表現で何度も繰り返される岡田への感謝の気持ちと自由が丘の頃の思い出を、まるで子供のような調子で綴った文章 - 中原宅で与えられたアトリエについての多少の不満もまじえながら-がとても印象的です。
絵は、自分で作ったという一本足のテーブル、その上で仕事をしているというベッドなど、中原宅での新しいアトリエの様子を描いたものですが、よく知られた織田の油彩画に比べ男性的な印象を与える鉛筆画。女性の描き方は織田の作風ですが、何より絵画と文章とのバランスが絶妙。絵画好きより挿画好きに訴えるものと云うべきで、あああっ。つまりは織田ファンには売れない!!! という気がしてきました…というくらいの現在スランプであります。
■2点目は動物をモチーフとした図案集でタイトルもそのまま『図案 動物選集』。東京美術学校(東京芸大)出身、後に京都工芸繊維大学繊維学部教授となった図案家・原三郎を編者とし、名古屋の深田図案研究所が大正11(1922)年に発行したもので、編者の専門や版元の土地柄から、主に染色図案を念頭に編まれたものと思われます。布装タトウに図案のカラープレート30葉、序文2葉が付されています。ヨーロッパ各国でさかんに発行されていた図案集をもとに編まれたものではないかと思われますが、構図、配色ともまとまりよく、強い印象を残すプレートが多数含まれています。
■今週はこの他、美術関係の図録・資料類が入荷しますが、比較的まとまった量となってしまったがために、店頭でのご紹介までには少々お時間をいただくことになりそうです。これまたスランプの…???
■3.11からもう3年が経ちました。昨日の東京は、ちょうどあの日のように冷たい風が吹く1日でした。あの日被災した町は復興しているでしょうか。仕事に復帰されましたか。もといた場所には戻れましたか。ご自宅は再建できましたか。あの日、被災された方は、あの日以前の生活を、少しは取り戻されましたでしょうか。
3年という月日が、失ってしまったものを埋めるのは無理だとしても、せめて、以前の暮らしを取り戻していくための足がかりとなってくれたのなら、と思います。これからの1年が、これまでの3年より少しでも実りの多い月日となりますように、お祈りいたしております。
一昨晩深夜の伊予灘地震には驚きました。こちらにはあまり情報が伝わってきませんが、被害にあわれた方々には心よりお見舞い申し上げます。
この国に暮らす限り、いつ、どこで、何が起こっても - いまや近隣諸国との軍事的紛争を含め- 不思議がないことを思い知らされたこの3年でした。
明日が、そう悪くない日であればいい。歳のせいもあってか、最近はよく、そんなふうに思います。1日1日と、それでも春は近づいてきています。明日はきっと今日よりあたたかくなる。