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22/03/12 久しぶりの洋もの! デペロのボルト本と19世紀末~20世紀初めの商品カタログ


デペロの通称「ボルト本」。いつか是非、オリジナルを扱ってみたいと思っている本のひとつです。いまから100年近く前、1927年に刊行されたオリジナルについては、しかし、機会の点でも資金の面でも、小店などで仕入れられる可能性は低いだろうということで、市場に出品されたリプロダクトを落札しました。
リプロダクトは買わない主義の小店ですが、オリジナルはすでに歴史的傑作として世界中でミュージアム・ピースになるなど、入手は困難。このクラスの場合はリプリントやむなしと考え始めています。
「ボルト本=The Bolted Book」という通称でよく知られる『DEPERO FUTURISTA』は、イタリア未来派のアーティストであるデペロ=Deoeroの代表作のひとつ
フォルトゥナート・デペロ(またはデペーロ)は20世紀初頭のイタリアで起こった前衛芸術運動・未来派を代表するアーティストのひとりで、画家、デザイナー(コスチュームデザイン、グラフィックデザインなど)、バレエはじめ舞台作品など、多岐にわたる分野で活躍しました。
『DEPERO FUTURISTA』は当時としては超モダンだったデペロのグラフィックデザインの集大成ともいうべき書籍であり、またオブジェ作品となっています。
厚さ約2cm、240ページ。本文ページはその多くが片面印刷となっていて、ボルトを外してプレートとして楽しむことまで企図されているのだとか。
今回入荷したリプロダクトは2017年、Thames & Hudsonが限定1000部を刊行したうちの1冊で、「過去に2度復刻版が制作されましたが、本作はオリジナル版の印刷、仕様を忠実に再現し、過去最高の再現性を持った復刻版」だと云われます。(http://www.nadiff-online.com/?pid=122372304 NADIFFサイトより)
添付の『READER'S GUIDE』は英文で47P。図版を多数収め、こちらのデザインもなかなかのものです。
ボトル部分の保護など含め、よく考えられた保護箱付き
小店店主にとっては夢を半分かなえてもらえた新着品となりました。
オリジナルを扱う日は来るのでしょうか!?

2点目は7冊入荷した19世紀~20世紀はじめの通信販売用のカタログより、いずれもアメリカにあった通販会社または百貨店(3社とも現存せず)のもので、上からニュヨークの百貨店の1885
~1886年・秋冬カタログ、ボストンの百貨店の1884~1885年秋冬カタログ、ニューヨーク通販会社の1918年春夏カタログ

19世紀のカタログは珍しいのではないかと思います。
この当時のものなので、商品の図版は全てイラストで一部を除きモノクロ。
婦人、紳士、子どもの洋服を中心に、ハンドバック、靴、帽子、アクセサリー等装飾品、肌着、リネン類、喫煙具など、身の回りのものがひととおり買える仕組み。なかには つけ毛 なんてものまで掲載されています。
19世紀後半から30~40年後の20世紀初めになると、カタログにもカラーページが増え、とくに婦人服のシルエットがウエストシェイプからゆったりしたパターンへと変化が顕著。紳士服はそうだろうと思いますが、靴についてもあまり大きな変化は見られないのは少し意外。
しかし最も顕著な変化は、19世紀のカタログの図版がほとんど銅版画・静止画のタッチであるのに対し、20世紀になると商品を身に着けた人物が多く、また下絵がハンドペイントによって描かれ、ゆらぎが与えられたことで、人間と商品に動きが出てくること。
必要から欲望へ。消費のスタイルに変化の兆しが垣間見られます。
カタログごとに掲載されるアイテムに異同があったり、図版のタッチに違いがあったり、通信販売用のカタログはつくづく通信販売に向いておらず、店頭でご覧いただければと存じます。

■この他、仕掛け本、手製本、商標スクラップブック、明治~大正雑誌表紙・挿絵コレクションファイルなど続々入荷中! 店頭で是非ご覧下さい。

11年前と曜日も同じ3月11日となった昨日。市場から市場へと移動する途中、海の近くのカフェで一休みすることになりました。古本屋としては非常に珍しい行動パターンです。
春を思わせる日差しのなか、目の前ににひろがる海はどこまでもおだやかで、あの日荒れ狂った海の景色をうっかり忘れてしまいそうになりました。
依然、行方不明の方も2500名を超えると聞きます。
フクシマはご存知の通り、収束などまだまだ望めません。
11年前のあの日、さまざまなかたちで被災された方たちに改めてお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
世界はまた、フクシマに続きかねない問題まではらんでコロナに続き先の見通しがたたない日々が続きそうです。
2022年の3月11日の金曜日。その時に見た海のように、おだやかでのどかな日々が一日も早く世界中に訪れますように……

 

22/03/05 戦争という名の ……

■今週の新着品は先週ご紹介した昭和15(1940)年、選挙粛正中央連盟が発行した『国を挙げて』の続きです。『国を挙げて』は印刷物でしたが、今回入手した2冊はその下絵を含む全点油彩または水彩による肉筆画の綴りです。
サイズも『国を挙げて』と同じ35×52cmで、上から貼り付けた紙をめくったり広げたりすると場面が転換するギミックも健在です。
先ず表紙に『戦争』と書かれた1冊について。
表紙に「研児 画」の署名がありますが、戦争画の絵葉書に僅かに名前を残すのみ。残念ながらいまのところ詳細は不明です。
また、こちらの1冊は表紙と裏表紙に厚紙を使用、裏表紙には壁などに掛けられるように紐が通されていることから、肉筆画そのままで掛図として使用されていた可能性があります。
テーマは諜報の意味・役割と海外諜報に関する注意など、諜報に関する啓蒙に主眼が置かれています。ほとんどが縦2頁をフルに使った全20図
もう1冊は表紙のない中綴じ29図
表紙・裏表紙ともなく、また、標語・啓蒙的内容のない戦争画も含まれていること、『国を挙げて』に使われている全く同じ絵や原案となったと思われる作品などもあること、そして、複数の作家の手になるものが集められていることなどから、こちらは純粋に下絵をまとめておいたものではないかと見ています。
また、こちらの1冊のなかには「不滅の信念! 敗戦恐るゝに足らず!」と敗戦を織り込んでものが含まれており、『国を挙げて』が発行された1940年から制作年に開きがあった可能性を伺わせます。

先週も同じようなことを書きましたが、どちらも実にベタな、ベタとしか言いようのないプロパガンダです。ベタすぎるプロパガンダがいかにグロテスクなものであることか!
プロパガンダの一傾向を伺い知るための手掛かりとなるのではないかと思います。
『国を挙げて』との関連性などから、今週の2点と併せ、3点一括での販売を考えております。

今年の3月11日は、あの年と同じ金曜日なんだなとカレンダーを見て気付いた3月4日の朝、ロシア軍がウクライナのザボリジエ原発を攻撃し、火災が発生しているというニュースが入ってきました。
ウクライナ最大といわれる規模のザボリジエ原発は、爆発すればヨーロッパの終わりとも云われています。
加えていま、核兵器の行使を決定できる地球上の権力者のひとりは、正気を疑われ始めています。
核兵器も原発も、人間は核をもつに値するには程遠い存在であることを、そろそろ認めるべきではないでしょうか。
今週の斜め読みから。

https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/022800313/
https://www.cnn.co.jp/world/35184470.html
https://mainichi.jp/articles/20220225/k00/00m/030/328000c
https://courrier.jp/news/archives/280031/

あたくさんありすぎてもっと重要なものが落ちている気が …

 

 

22/02/26 不謹慎と言う勿れ- 戦時下大衆操作プロパガンダと化粧術の消息

■今週の日曜から月曜日にかけて、古書組合・中央市会の年に一度の大市が開催されました。その時にはロシアのウクライナ侵攻についてはまだまだ半信半疑、というか、21世紀に入ってまさかここまで旧式で低俗な戦争が起こるなんてことは、考えてもいなかったと云った方が適切な気がします。
今週月曜日に同じ週の金曜日に起きることが分かっていたとしたら、悪い冗談としか思えず果たして買っていたかどうか。いまとなってはひどく悪趣味な新着品となってしまったのが、新着品の1点目、昭和15(1940)年、選挙粛正中央連盟が発行した『国を挙げて』。戦時体制における模範を示した戦時教育資料ですが35×52cmとかなり大判。裏表紙に鳩目穴がふたつあることから、学校や職場、町会などで、掛け図のように使われたものではないかと推測しています。
大判の2面を縦に使った図版が全てフルカラー印刷で12図。「八紘一宇」(念のために申し上げておきますが、この言葉は日中戦争から敗戦まで、日本が海外侵略を正当化するためにさかんに使った言葉で決して誉められたものではありません)「東亜新秩序」「興亜大業之翼賛」「一死報国 一票報国」といった言葉が躍り、神武天皇から兵隊、市井のご婦人方の姿までが描かれます。
発行元は選挙粛正を掲げていますが、実際の内容は、当時、強化が必要とされていたのであろう戦時教育全般にわたっています。
観る人たちの注意をそらさないためか、こまかなギミックも仕込まれており、例えば画像中上段の戦闘風景が描かれたページは、戦車の部分を下にめくると「金」と描かれた円形の部分が飛び出し、戦車の絵の裏側からは「金を政府に売りませう」という言葉が現れます
下段の「考え直せ戦時の生活」では、和装の女性の帯の部分を開くと3面が現れ、燃え上がる「愛国心」と「国債応募」という絵と言葉が出てくるという仕掛け
その他、「一死報国」では文面まで印刷された慰問手紙の入った封筒が貼り付けられており、「一票報国」では投票箱に投票用紙が1点仕込まれているといった具合。
戦時下のプロパガンダについて、これまで小店が扱ってきたものは、東方社にしても日本工房にしても、卓越したセンスと技量をもつ表現者たちによって生み出された洗練されたプロパガンダであり、ここまでベタなものはほぼ初めてかも知れません。戦時下の日本社会にあふれていたのは、云うまでもなく大衆を相手に分かりやすくベタなこの手の表現だったはずなのに。
云わば川上のプロパガンダと川下のプロパガンダ。21世紀現在、ある種のフェイクニュースとも通底するものがありそうな川下のプロパガンダ=大衆に向けられたプロパガンダに、もう少し注意を払わねばと考えています。
 

あまりのベタさに少々閉口した後はせめて明るく清涼感のあるものを。
「東京 銀座 資生堂」製『SHISEIDO BEAUTY CHART』。小店、これが初見です。
画像の銀色の円盤をまわし、三角窓の部分にその時々で目指すべきメークの女性の顔を合わせると、下地、白粉、口紅、頬紅、其他に割り振られた〇5つに資生堂のどの商品を選べばよいのかが、カラーとともに示されるという仕掛け。
例えば画像中、左端の女性は「シャンデリヤのもと社交化粧」を施した図で、このために必要なのが、3号グリスシャドーの下地、モダンカラー9号の白粉、ルーヂック7号・1号の口紅を使い、頬紅は練紅ディープオレンジで、其他香水とマニキュアを用意しましょう、ということに。
メークのシーンも「丸まげも緑に匂ふマダム化粧」「潮風に程よく焦げてビーチ化粧」「いつまでも老けず艶増すかくし化粧」「いそいそと働き盛りスピード化粧」、その他スピード化粧や濃化粧など何でもござれの8パターン。
さすがは資生堂さん つくづくよく出来ています。
裏面には当品の意味を説明したテキスト有。状態は極美。おそらく2度目の入手はないだろうと思われるレアなエフェメラです。
資生堂といえば『花椿』という方も多いかと思いますが、1937(昭和12)年創刊なったこのPR誌が戦争によって休刊したのが1940(昭和15)年、奇しくも『国を挙げて』が発行された年のことだったというのも少々因縁めいて感じられた今週でした。

■明日にはこの他、スクラップブック7冊、「世界動物博 ハーゲンベック猛獣ショー」絵葉書他紙もの小箱1つ分19世紀末~20世紀はじめの通販カタログ(洋書)6冊ウィーン分離派ポスターの復刻版を未綴じで収めた1冊などが入荷します。

■今週の斜め読みから。もちろん話題は……
https://mainichi.jp/articles/20220223/k00/00m/030/052000c?fbclid=IwAR3H8_uAIteShr_HjCK6k54Ap2E1v7tDvt-175jcykf61skSje5PxOtxRKs

https://courrier.jp/news/archives/280031/?fbclid=IwAR057AwZ_cxziSUY_dwHvHHCLo1QjTqZ-1L_iR44i-8-tMFVYLhWcOc_jLI

https://uacrisis.org/en/help-ukraine?_utl_t=fb&fbclid=IwAR3H8_uAIteShr_HjCK6k54Ap2E1v7tDvt-175jcykf61skSje5PxOtxRKs

 

 

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