■あれよあれよと云う間に10月も半ばを過ぎ、目録原稿締切までひと月を切りました。浮足立った気持ちで出掛ける市場ではつい前のめりになるものだから、しかもこれまでそれで良い思いをした記憶がほとんどないこともあって、自制にあいこれ努めると、今度は何も買えなくなるのでありました。
そんな時にもこだわりなく買えるのが、目録には絶対に使うことがなく、それほど手間なく店に置ける古道具の類。
というので久しぶりに市場に出てきた化粧品パッケージの混じる1箱を落札しました。
自分でつくっておいてこう云うのも何ですが、ご覧下さいこの画像。何分にも素人のすることで、切り抜きがガタガタだったりしてますが、黒をバックに並べていくと、いやこれがもう我ながらビックリな美しさであります。最近の画像の中では上位入選。がしかしそれは、小賢しい加工に血道をあげたところで、ブツそのものがもつ力には勝てないということの証明でありまして。
それじゃあ一体何だつーの。ほぼ週一のこの徹夜作業は!!!
と やさぐれてる店主はこの際ほっといて、細かくところについて少々。
例えば「明菓ミルク洗粉」。私は初見です。明菓? 明治製菓?まどうせネーミングを拝借しただけなんでしょ。と思って箱の裏書きを見ると、ななんと「製造元 明治製菓株式会社」。「整肌上効果あるコナミルク」を使った洗顔料だそうで、なるほど明治製菓の技術がベースとなった製品です。未使用・中味あり。コナミルクによる整肌上効果のほどは、是非お試し下さい。
他にレート白粉の金属製コンパクトと紙製パッケージ、精香舎謹製・純植物性ケンシポマードあり。ケンシポマードは愛好者にいまも慕われる名ブランドのようです。そして、少し大ぶりのセルロイド製のコンパクトのデザインと色、細工の見事なこと!明日他にも面白いものが店に入ってくるのが楽しみです。
それにしても、紙じゃないものだとこんなに楽しいは、目録作成のプレッシャーから逃避しようという心理によるものか、はたまた古本屋の適性を欠くことによるものか。どちらにしてもモンダイあり。
■南京大虐殺が記憶遺産に登録されたのが面白くなくてユネスコにはもうお金あげないよと平気で云えちゃうセンスとは何でしょうかねこれ。恫喝とかとどこか違うんでしょ。お金でもって人を脅すというのは、これ以上ないほど下劣な行為でそらもう恫喝だわいね。
そういうことを平気で云ってのける人たちが、その一方で「美しい国」なんて云うのを大人しく聞いているとこんなことになるという例証をひとつ。
昭和7(1932)年に少年国防会の編纂により出版された学童生徒向けの読本『少年国防叢書Ⅲ 我らの空軍』です。
この頃はまだ余裕があったためか、英米ロ等各国の飛行機や飛行船の話題も多く採られていますが、やはり目をひくのは日本の情報とビジュアル表現。例えば、袖折込みの扉や本文中に挿入される写真やレイアウトなどの視覚的な要素です。
画像中上段右端のカットの異様な印象を与えるフォトモンタージュ、新興写真やバウハウス叢書を下敷きにしたかのようなモダンタイポグラフィなど、この当時の尖端表現を用いながら、そのスタイル-つまり多分に情緒的なアプローチ-によって洗脳を進めるという、この当時の常套手段。従って、この時代、同じような印刷物、書籍や雑誌が陸続と世に出ることになったわけですが、木村書房なるところから出版された『少年国防叢書』はなかでも比較的探しにくいものとなっています。
■先にも書いた南京大虐殺については、こつこつと丹念に資料をあつめた個人のサイトが
あるのを最近になって教えられました。丹念な、根気強い、つまり誠に誠実な、歴史との向きあい方がここにはあります。http://www.geocities.jp/yu77799/index.html
これまた何考えているんだかと思うマイナンバーカード。まず手始めに通知カードの郵送が始まりましたが、なるほどこういうふうに対処する手もあるのかというのがこちらに。http://sun.ap.teacup.com/souun/18552.html#readmore
まだまだいろいろ続いています。やれやれ。
■何しろ古本屋ときたら肉体労働。気持ちのよい季節だというのに、ちョット作業をすると汗をかきます。そのままPCに向かうと、今度は途端に体が冷えます。
今週はそんなことの繰り返しだったせいか、さきほどからクシャミ鼻水軽い頭痛と、いわゆるひとつの風邪の諸症状というやつが現われ始めております。来週には目録原稿作成に着手しないといけないというのに ちぃとまずいゾ。というわけで、本日の更新は手短に。幸い、ネタも今週は小モノ。
あ。店を休むほどのことではありませんので、10/10(土)、そして来週火・木・土曜日は店やってます。
■この装丁、小店店主の好みのほぼど真ん中という『世界プロレタリア文藝選集』が久しぶりに入荷しました。いずれも昭和5(1930)年に金星堂から出版された初版本です。戦前日本で翻訳が相次いだアプトン・シンクレアの著作で木村生死が翻訳した『拝金主義』、革命後のロシアで中堅作家とされたフセェウォロド・イワノフの作品を黒田辰男が訳した『装甲列車 No.1469』、そして、ロシア構成主義に理論的基盤をもたらしたとされるアレクセイ・ガン(当書表記は アリェクセイ・ガン)の主著の黒田による訳出『構成主義芸術論』の3冊。
『構成主義芸術論』は太い罫線の利用や縦横斜めと自在な組版の導入、文字サイズも統一していないなど、元著で採られていたであろう前衛的表現が踏襲されています。
また、『装甲列車』は元著からの流用と思しき挿画が数点挿入されているのも魅力。
版元である金星堂は、築地小劇場のなかに売店をもっていたことでも知られる出版社で、世界の前衛的戯曲作品をシリーズで日本に紹介した『先駆芸術叢書』では、装丁に日本における未来派の提唱で知られた神原泰を起用。洋書を思わせる瀟洒な装丁を施した稲垣足穂の『星を売る店』 『第三半球物語』も同じく金星堂からの出版でした。金星堂、なかなかやります。
■同じく左翼系ですが、こちらは雑誌。村山知義、金子洋文などが編集に携わった雑誌『文藝市場』のうち、大正14(1925)年の12月号、大正15(1926)年9月号、昭和2(1927)年3月号の3冊が入荷しました。
左翼系文芸誌として出発したものの、経営難から軟派に転じ最終的にはエログロナンセンスの雑誌にすっかり衣替えしていた雑誌ですが、入荷した3冊はまだ文芸誌としての傾向の強い時代。とくに画像左、表紙のデザインに写真を組み込んだ第1巻第2号は、「文藝市場宣言」として「ダダ、表現主義、新感覚派、コント(中略)いずれも結構である」と云う言葉通り、画像中見開きページに見るように広告に至るまでダダ。お見事。
この他、『ナップ』『労働雑誌』各1冊、『何を読むべきか』4冊が入荷しました。
いずれも小粒な今週の新着品です。
来週には目録原稿に着手かと思うと、手のかかるものと嵩のあるものを買う気にならないというのが当面のモンダイになりそうです…こちらもちぃと もとい こちらは大いに モンダイだ。
■記者会見、というものが、某国では事前に調整するのが常態となっていたというのに驚いた今週、さらにこんなお話しも。http://lite-ra.com/2015/10/post-1561.html
「大本営発表」と云うもの、結局は本領を取り違えたマスコミがつくりだしてたんですね。はーい (^O^)/
■漸く今週の新着品のアップです。
画像は今年7月14日付けでご紹介した、明治末発行の多色木版刷の図案集『新美術海』を、昭和54年から55年にかけて元版に忠実な木版刷りで再現し、巻1から巻7までの7冊を販売したもの。再現という言葉を使ったのは、昭和版も明治版の版元と同じ芸艸堂が発行したものであり、戦災をも免れて京都の芸艸堂に残されていた明治版の版木を使っていることによります。復刻とかリプリントとか云うのとも異なり、明治35(1902)年の元版発行スタート以来、遥か77年を経て出来した重版、とでも云うべきものです。
7月に入荷したのは元版4冊でしたが、今回入荷した昭和版は布装の専用帙と保護箱に収められた全7冊の完揃い。全冊和本・木版装で、1巻から6巻まではそれぞれ50丁100図を、7巻は60丁120図を所収。従って、全部で720点にものぼる図案を、木版多色刷で再現したことになります。昭和54年と云えばいまから36年前。それなりに時間は経っているとはいえ、当時でもすでに、この点数は相当な力技だったはず。販売当時の定価が27万だったというのも充分納得できると云うものです。
7月14日の更新の際に書いたことの繰り返しになりますが、この『新美術海』、監修を神坂雪佳が、編者を雪佳の信頼厚かった弟子の古谷紅麟が務めています。今回初めて7冊を通して見ることができたのですが、とくにウィーン分離派=セセッションの影響を感じさせる図案が多いのが印象的です。ヨーロッパのアートの尖端と日本の図案界 …… 一見、遥か遠くに隔たっていたかに見える両者が、一体どのようなメディアを通じて共時的に繋がっていたのでしょうか。欧州美術界の潮流を咀嚼し、日本の図案に取り入れアレンジした力量も、一朝一夕で成ったものとは思えません。
海外での評価が先行する雪佳とその弟子・紅麟の仕事。日本国内での知名度も、もう少し広がってくれても良いと思うですが、号令だけの浅薄な愛国の時代、当面海外流出が続いたとしても仕方のないことでありましょうか。
■2点目は、染色家で民芸運動家、日本各地を歩き、調査活動にも注力したことで知られる岡村吉衛門の著書『日本の絣』。昭和48(1973)年に限定150部が発行された当書は、岡村が各地で収集した絣の絣の布現物を貼り込んだ2冊と解説1冊の3冊から成るもの。専用の帙に収められています。
岡村は、絣が日本に入る際の経由地となった沖縄の絣にこだわっており、解説ではまるまる1章を沖縄と沖縄諸島にあてている他、「貼付小註」で沖縄の絣技法が日本に入ってからの変化の過程を実物で示したいという希望が「なかなか果たされないことも身に沁みた」と苦労を吐露しています。
また、「古い技法の裂が非常に少な」いのだと云い、高度経済成長期も末期、古い時代の痕跡が生活の場からほとんど失われていたことを伺わせます。
岡村の文章は至って淡々としたものですが、それでも、歴史を知る者として、それをよりよいかたちで伝えることができないことに対する無念がにじみ、収集された布見本に込められた思いの深さを思わずにはいられません。
■この他、洋書絵本の復刻版・オズボーンコレクション、1950~1970年代頃の切手コレクションファイル30冊などが入荷、これから値付けに入ります。
■何だか最近恥ずかしいことを恥ずかしいと思わない人が多いようで。例えば図書館をめぐって。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151004-00000013-it_nlab-sci
世界各国が自らの問題として考えている難民問題について日本でのひとつの表現をめぐって。
https://mobile.twitter.com/tkatsumi06j/status/650625715239415808?s=09
何しろ国家としてのトップが海外の記者の質問に難民と移民との区別もちちかないような答えを語る国ですから。ああ今日もニッポンの恥はかき捨て……。