■一週間後にはもう2月だということに愕然としつつ、今週の新着品のご紹介です。
1点目は昭和7(1932)年発行の『新版画 第6号 国立公園特輯号』。「新版画集団」のメンバーのオリジナル版画作品を収めて発行した同人誌です。
「新版画集団」とは、「1930年代、自画自刻自摺の創作版画は一定の成熟をみ」ながら、「創作版画という芸術分野のみで自足」する状況に対し、小野忠重らが「"版画の大衆化"を謳って」結成したグループであり、その活動の中心にあったもののひとつが機関誌『新版画』だったと云います。『新版画』には「生活者の視線から近代化される東京の風景が批判的な眼差しで切り取られる一方、地方の無名の若者も多数参加」していました。
*「」内は和歌山県立美術館のウェブサイトより引用
https://www.bijyutu.wakayama-c.ed.jp/exhibition/hanganomaki1_2.htm
モダニズムの流れのなかで人間を疎外する都市を描きだす作品の多い『新版画』で、何故、「国立公園」の特集が編まれたのか? …… というわけで。こういう時は先ずG先生に聞いてみることになります。
wikiによれば瀬戸内海国立公園、雲仙国立公園(現・雲仙天草国立公園)、霧島国立公園(現・霧島錦江湾国立公園)が日本初の国立公園で、指定されたのは昭和9(1934)年のこと。但し、国立公園法の制定は昭和6(1931)年で、『新版画 国立公園特輯号』発行の1年前のことであり、「国立公園特輯」は国立公園法の施行ではなく制定を受けてのいち早い反応だったと見られます。
うぬぬ。1930年代にして早くも都市化への反動意識が現れていたのか?
とすると、一般社会においても「国立公園法」の制定は一定のインパクトをもちえていたのか?
なんてことを考えるのは古本屋の任ではないので、国立国会図書館のタイトル「国立公園」×出版年「1931~1932」でクロス検索するにとどめたいと思いますが、ヒット件数79件の中には阿寒や十和田や黒部といった具体的な地名の入った関係図書・専門調査報告の他に『蒼天に展く : 國立公園候補地航空寫眞集』(大阪毎日新聞社)『アサヒグラフ臨時増刊國立公園號』などもあって、一般社会的関心の高まりの一端をのぞかせているのでした。
『新版画 第6号』に戻ると、オリジナルの版画は15点で(入荷分は2点欠の13点です)うち「富士」をモチーフとした作品が3点、「日本アルプス」他山岳風景が4点、他に十和田、日光、南紀といった順当かつ国立公園指定の下馬評との一致も見られるラインナップ。当号でも注目の藤牧義夫は「やま・やま」(画像一番左)の1点を寄せています。
今回入荷した1冊は、佐藤米次郎の「雪光る」と、藤牧とは因縁浅からぬ(と見られる)主宰者・小野忠重の「自殺する殺人者」の版画2点が欠けているのが惜しまれますが、小店程度の古本屋への入荷は非常に稀。古本屋の王道をいく1冊です。
■2点目は1931年、フランスで発行された画文集『LES COLONIES FRANCAISES』。フランスの植民地 - アルジェリア、モロッコ、ギニア、マダガスカル、タヒチ、カンボジア、ベトナムなど21の国・地域 - をテキストとポショワール挿画で紹介したもの。
いま扱うと「文化の盗用」といって批判されかれない (?) 挿画21点には、ラブルールの作品と、驚くなかれ長谷川潔の挿画もあり! 画像向かって左端が 長谷川、真ん中がラブルールの作品。
長谷川らしからぬタッチと彩色ですが、田植えをする人をはじめ細部まで手を抜かない描線に、しっかりと長谷川らしさが宿る作品となっています。
小店での扱いはこれで2度目となりますが、かれこれ10年以上前のこと。限定900部は決して少なくはありませんが、長谷川が関係しているとは気が付かないためか、日本での入手チャンスはそう多くないと思われます。
挿画家には日本ではほとんど知られていない名前が多いものの、コロニアル・スタイルやエキゾチシズムが強調されたイラストは粒揃い。ご興味ある方は是非店頭でご覧下さい。
■ようやく2020年の店の営業が始動いたしました。大切な商品についてはほぼほぼ店内のしかるべきところ、と云うのはキャビネットの引き出しなり箱の中なりに放りこんで、店での日常業務を取り戻すまでにあと一歩といったところにこぎつけました。
来週より暫く店は火・木・土曜日の各日12時~20時で営業いたします。
かくしてニチゲツドーにも新しい年がやってまいりました。
今年も「居住者以外立ち入り禁止」の表示をものともせずご来店のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
■今年は1月4日に即売会がスタートしたため、この年末年始はまともに新着品のご案内もできませんでした。そこで、今週は2019年最後の市場での落札品と2020年最初の市場での落札品から1点ずつをピックアップしました。
先ずは2019年の市場から。
「竜田牛歩編」「牛歩編」とも記された『ワタシノエホン』3冊。
竜田牛歩なんて全く知らない名前でしたが、明らかに手書きのタイトルに目がとまってページを繰れば素人ならざる達者な絵が。タッチや色彩感覚も小店好みです。
いや、そんなことより!! 3冊それぞれ半分近くのページに仕掛けが施されているではありませんか!!! そうでなくとも壊れやすい仕掛けのほとんどが、いまもしっかり支障なく動くことにも驚きました。
竜田牛歩は龍田精三の名前で多少は知られた明治時代の浮世絵師だそうで、田口米作の門人だったとか。その田口は小林清親の門人だったので、牛歩は清親の孫弟子ということになりましょうか。それはさておき、師の田口は雑誌『小国民』の挿絵も描いていたと云いますから、牛歩のこの絵本も田口の門人らしい仕事と云えそうです。牛歩はまた、東京美術学校の西洋画科卒のエリートでもあり、私なんぞが見ても達者な絵だとすぐわかるのも当然と云えば当然なのでした。
このあたりのことは全てwikiから簡単に引っ張ってくることができるのですが、1876年生まれとされる竜田牛歩こと龍田精三の没年は不詳。
『ワタシノエホン』では例えば子どもたち、とくに男子が国民服を着ていること、描かれている自動車のデザインなどから見て、市場で入札する時から、日中戦争~太平洋戦争の時代に描かれたものと見ていましたが、改めて全ページ確認していたところ、「紀元二千六百歳式典 舞楽 昭和楽」と記された絵が出てきました。これによって、竜田は少なくとも昭和15(1940)年までは存命だったと見られます。
肝心の仕掛けについて云えば、高波を越えて航行するヨット、糸と腕が動く凧揚げ、70cmの長さで続く高架橋上を走る列車、弧を描いて飛ぶ玩具のプロペラ飛行機、桜の満開の中を飛ぶ鳥の群れ、餅つきをする月の兎、延々180cmに及んで移り変わる車窓の風景が描かれた「十國峠のドライブ」等々、多彩なアイディアとギミックとに注がれた情熱に驚嘆するばかり。
さてこれは、挙国一致に傾く国情に同調したものか、暗い時代が迫りくる予感のなかで自己の満足になぐさめを見出そうとしたものか、そのあたりの評価は分かれるところかと思います。
■こちらは今年最初の市場で落札した『MUSASHINO』=「千九百二十八年十二月十四日 武蔵野館新築落成開館記念」のパンフレット。
A4をひとまわり小さくした8Pの薄い冊子で、他に「映画劇場武蔵野館新築工事概要」2Pが綴じ込まれています。
冊子本体には「新武蔵野館案内」「武蔵野館新築落成記念開館式」の番組(アレキサンドル・ペトロフ独奏! 徳川夢声他による「街の天使」!他)、新宿と所縁の深い設計者・明石信道の寄稿(武蔵野館は明石の処女作)、ペトロフ氏について、などの他、「"武蔵野ヴォードビル"の計画に就て」(=長文)といった記事も。
また、「工事概要」では規模、施設、設備、工事関係者等詳細が記録されている他、裏表紙には平面設計図の写真図版が、中面には館内・外観の一部を写した写真図版が収められています。
新宿武蔵野館は大正時代に誕生、関東大震災で被災した後、1928(昭和3)年に移転してロードショー館に転向。このパンフレットはこの時のものですが、ロードショー館への転向以外に、"「武蔵野ヴォードビル」なる華麗絢爛たるショーを上場する計画"があったことが分かる貴重な資料。
「う。ここまで来たか…」という落札価格ゆえ、決してお安いものではありませんが、正直、再度探せと云われたところで見つかるようなものでないことだけは保証付き。と云っておきながらアレですが、表紙のデザインがまさにツボで買ってしまったために、一体どのような方がこれを必要とするのか…いまのところさっぱり分かっておりません。はっはっはぁ~あ。
■かくして2020年もなかなか厄介なところからの船出となりました。今年もたくさんのご教示とご厚情を賜りますように、改めてお願い申し上げる次第です。
■2020年に入り早くも10日が過ぎました。松屋銀座での「第38回 銀座 古書の市」が小店今年の初売りとなりましたが、年頭早々から大変多くのみなさまに会場にお運びいただき、またたくさんのご注文を賜り、参加17店全店、お陰さまで大変良いスタートを切ることができました。
改めて心より感謝申し上げる次第です。本当に有難うございました。
1月10日には早くも初市に参戦、成果も手にいたしておりますが、ご注文品の発送作業や店の復旧などまだまた山なす残務の関係で、今年最初の新着品ご案内は1回休んで来週からとさせていただきます。
また、店の営業は1月11日(土)の午後1時~20時、来週は16日(木)・18日(土)の12時~20時とし、12日(日)~15日(水)はお休みさせていただきます。
年頭早々よりご不便をおかけいたしますが、何卒ご容赦のほど、また16日以降のご来店をお願い申し上げる次第です。
2020年もたぶん、ではなく、間違いなく、誠に勝手な営業が続くかと存じますが、本年も何卒よろしくお願い申し上げます。