■気が付けば8月。今年も尋常とは思えない連日の暑さ、そして突然の雷雨に襲われて、年々生きた心地がしなくなりつつある日本列島のこの季節、とてもじゃありませんが「ご来店下さい」なんて気軽に云う気にはなれません。げんに店主も表参道からてくてく歩いて店に着く頃には汗まみれです。不快なことこの上ありません。
がしかし。
誰も来ない店におりますと夕方頃にはいい塩梅にフトコロあたりから冷えてまいりまして。
さらに閉店頃になると今度は冷たい汗がたらりたらぁ~りと流れてくるという……。
くだらぬ話はこのくらいにして、今週も着品をご紹介いたしますので、みなさまここはひとつ、「是非ご来店下さい!」
■7月28日(月)、ようやく国立新美術館で開催中の「魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」に行ってきました。
パーテーションをできるだけ少なく、使っていても背を低く抑え、ガラスケースなどを極力排除しているせいか、オープンフロアのように見える広い空間に、バレエ・リュスが活動した1909年から1929年当時の舞台照明を再現するかのようにライティングは控えめ。その結果、会場のあちこち、床上数十センチのところからコスチュームが浮かび上がって見える展示は、この展覧会の企図にこの上なく相応しいものでした。
展示されている衣裳は約140点。その多くが360度どの角度からも見られること、コスチュームのデザイン画ばかりでなく、舞台美術の彩色画などと併せてみられることなどもあって、これまでモノトーンの画像の中に静止したきりだったバレエ・リュスのダンサーたちが、少しずつ動き出すような感覚を覚えました。
オーストラリアでの展覧会に際して発行された図録をベースに、新たに「日本におけるバレエ・リュスの受容」という論考 - 先行する研究からこれまで言及されることのなかった第一次資料まで、丁寧にすくい上げ丹念に考察した目覚ましい成果! - が加られた図録『魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』も必携必読です。
そして、今週の新着品の1点目は、その「日本におけるバレエ・リュスの受容」のなかで図版とともにその具体的事例として言及された資料のひとつ、『假面(=仮面)』。図録で取り上げられたのは1914(大正3)年1月号・2月号で、長谷川潔が「シェエラザード」で「金の奴隷」を踊るニジンスキーを描き、木版画に起こし、同じ図版を色違いで2ケ月続けて表紙に使ったもので、新着品はこの2冊を含む15冊です。
『假面』は、詩人で英文学者、古書愛好者の間でいまでも人気の高い日夏耿之介や西條八十らによって発行された文芸同人誌で、表紙や扉・カットなどに長谷川潔の版画オリジナル作品が使われていることで知られます。長谷川の版画が入っていることもあって、小店などではなかなか落札させてもらえない定評ある雑誌であり、かつまた、ここ数年、まとまって出てくるのを見なかっただけに、扱ってみたいけれども入手は難しいだろうと思っていたところに、何と昨日8月1日の明治古典会に出現、念願かなって落札できたという次第。こんなこともあるんですね。
今回入荷する15冊は1913~1914(大正2~3)年に発行されたもので、表紙は長谷川潔か永瀬義郎が表紙の木版画を担当、いずれも表紙のコンディションは上々。号によっては、長谷川潔が表紙だけでなく扉やカットまで担当したものも。但し、合本をばらして裏表紙を別紙であつらえた号が混じっていますので、詳細についてはお問い合わせいただければ幸いです。尚、画像中、下段左から2点は、「自刻」とはっきり記載された長谷川の表紙、扉、裏表紙の木版画が揃った通巻23号(大正13年12月発行)です。
■パリから帰国してからこのかた、洋モノが続きましたが、ここらで和モノを。肉筆墨書きで『落柿集』と題された経本仕立て、多色木版刷30図。奥付もなく、著者、版元、刊期等書誌的記載がどこにも見当たらないことや、題箋などから、手製の改装本と思われるこの図案集、図版に見られるデザイン化の大胆さや色遣いなどから「津田青楓のものでは?」とあたりをつけて落札した後、調べてみるとビンゴ!明治期、芸艸堂から出版されていた津田青楓の図案集『落柿』であることが判明。芸艸堂さんから現在も発行されている『近代図案コレクション 津田青楓の図案』にも一部図案が掲載されているその元版。
今年4月、津田青楓の『染織図案』があまりにもあっけなく売れてしまって少々後悔していたのですが、これで少し取り戻した気分。こちらの商品、経本仕立ての折目が弱っているため、恐縮ですが、店頭にお出しするまで補修に少々時間を頂戴いたします。
■今週はこの他、『Seventeen』等洋雑誌7冊、アール・デコのデザイン関係ビジュアル本2本口、戦前戦後アメリカの音楽関係雑誌3本口、『ミュージック・エコー』20冊、昭和の子どもの絵・練習帳等1本口などが明日には店に入ります。