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15/07/14 日本のデザインをめぐる2点 - 1820年の下絵集と神坂雪佳監修・古谷紅麟編『新美術海』

■一足飛びに夏がやってきました。自然環境から人の行い・思考まで、日本列島あらゆるものが、どうもかなり荒っぽくなっているように思います。
こうなるとせめて市場でのご同業のみなさんも、もう少し荒っぽく手を抜いて下されば、なんて思うのですが、相変わらずお目こぼしはないし。キモノの図案・意匠関係の一口が出品された市場では、小店店主ほとんど殴られ放題、ボコボコにやられてしまいましたが、とりあえず辛うじて落手できたものから2点をご紹介。ボコボコにされたとはいえ、狙ったものの中でもかなり上位に位置づけていた品物です。

その1点目。新聞紙を四分の一程度にした大きさで、厚さは約7cm。長い時代を経た風格、威風堂々たる面構え - 黒ずんだ表紙まわりが何か圧倒的な存在感で迫ってくるこの和綴じ本、市場で一目見るなりアタマの中で「これは買わなければいけない」と警報が鳴り続けた品物で、こんなことは久しぶりでした。なかに手描きの図案、古典的な文様の写し、古裂現物の貼り込みなど、527点を収めた手製本です。
タイトルは『●●●屋下絵集』。頭3文字が欠けていて読めませんが、下絵=図案集であると。見返しには墨書きで「文政年庚辰 弥生月製集々 匂風斎(こうふうさい)秘蔵」とあり、従って文政3年=1820年、つまり今から約200年前のの4月に製作されたものと知れます。記名の横には「香風斎」の落款が見られ、当時、多少なりともその仕事が認められていた人ではなかったのかと思います。云ってみれば、江戸時代のファッション・デザイナーが残したデザインソース集というわけです。
図案素描は墨書きが中心ですが、彩色図版も多数。また、幾何学模様や縞、古典文様から植物や動物などをモチーフとした絵画的な作品まで、作風は多彩。ですが、細い線で細部まで描き込んだ筆致は共通しています。下絵の一部には、図案構成に必要だったであろう枡目の線が残されていて、図案作成の過程をのぞかせます。
図案・古裂の別なく527点全点四周を金色の罫で囲む丁寧な作りに加え、ページを繰る毎に現れるレイアウトも見事。威風堂々たる下絵集のこの存在感は、200年という時間の堆積ももちろんですが、作り手=旧蔵者が込めた思いの深さに与るものなのかも知れないと、そんなことを思う1冊です。
 

『新美術海』は京都の版元・芸艸堂 - 明治以来、木版刷の図案集で名高い版元 - から、『美術海』の後継誌として明治35(1902)年より発行された木版多色刷による図案集です。全7冊が刊行されたうち、2,3,6,7号の4冊が入荷いたしました。もちろん、4冊とも明治に出版された元版。木版刷図案集としてはよく知られたシリーズですが、『美術海』の編者が芸艸堂とされているのに対し、『新美術海』は神坂雪佳が監修し、古谷紅麟が編んだということもあってか、『美術海』と比べ目にする機会が少ないように思います。
神坂雪佳はいまさら云うまでもありませんが、エルメスに取り上げられるなど、近年、とくに海外での評価が高く、日本でも知られるようになった画家・図案家。古谷紅麟は、現在も紅麟の図案集を発行している芸艸堂のサイトによれば “雪佳の後継者として嘱望されながらも惜しくも夭逝した天才デザイナー”であり、“琳派ともアールヌーボーとも一線を画すオリジナルな世界を展開”したとのこと。
同じく芸艸堂のサイトで『新美術海』の紹介を見ると、“植物や花鳥風月をモチーフに、躍動感あふれる図案と美しい色彩の日本の伝統と西洋の近代が融合した新しい時代のデザイン集”とあり、1号につき片面刷り多色木版画を100図から120図を収めた贅沢さで、明治期を代表する図案集のひとつです。

■今週はこの他、戦前のマッチラベル貼込帖2冊明治の名刺大写真50枚ほど、江戸小紋と墨染絽の布見本帖各1点などが入荷しています。

『新美術海』も『美術海』も、昨春小店HPでご紹介した『浮世絵文様』も、実はいま、無料でダウンロードが可能です。データ公開しているのはスミソニアン・ライブラリー。収蔵元も公開元もいずれもアメリカ。「そうか、スミソニアンが収蔵するようなものが買えるのか!」と思うか、「やったね、タダだ!」と思うのか、残念ながら我が国内では後者が圧倒的多数で、小店がこれまで扱ってきた木版刷りの図案集はそのほとんどが海を渡って行くことになりました。そうです。浮世絵どころか岡田龍夫あたりまで含む先人の優れた感性と仕事に対する評価という点では、すでにもう日本の負け。コレクションは着々と海外で形成されていると推察され、国内は完敗と云える状況です。ああ、それでも国立新競技場2,500億円。それどころか、3,000億円超えの声も聞こえててきました。我がなけなしの都民税も、あやつに飲みこまれるのかと思うと無念でござる。うう。
あの建物、何故そこまでかかるのか、そして、現実に建てるとなると外苑西通りはじめ道路の拡張まで必要だよねェ~ というおっそろしい話が淡々と分かりやすく説明されているサイトがこちら → http://ameblo.jp/mori-arch-econo/entry-11744493834.html
近年の各国オリンピックの競技場がいくつもつくれてしまうという金額も、自分たちのやろうとしていることを批判するメディアは「こらしめる」なんて発言が出たり、沖縄の2紙は潰れてもらわないと困るという発言が「文化」とか「芸術」の名称を冠した与党政治家のグループのなかで出てくるのも、瞬間的におそろしいことだと分かるのだけれど、最近聞いた最も驚きかつ震えた言葉はこれでした。
「取材の最終日、沖縄戦の悲劇を伝えるひめゆり平和祈念資料館の見学を終え、昼食を取っていたときのことだ。/目の前に座った、全国紙の論説委員の男性はゆっくりと、それでいて威圧的な口調で言った。/「先日あなたがビデオ撮影について沖縄防衛局長にした質問は、防衛省の記録に残るだろう。むちゃなことはしないほうがいい。安倍政権を甘く見ないほうがいい」…… な、なな、なんなんですかこれ? こうなるともはやヤのつく世界のおそろしさ…ぶるぶる http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150703-00002210-kana-l14
そして、まずいことは握り潰されるという70年前の事実 http://blog.goo.ne.jp/mulligan3i/e/6373e9fcdda2502639dac8eb230adcad
どちらを向いてもうそ寒いような只今現在の日本、さて、来週半ば、暴挙を止める術は果たして……?


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