#205 6-1-6 Minamiaoyama Minatoku TOKYO
info@nichigetu-do.com
TEL&FAX:03-3400-0327
sitemap mail

detail

12/12/01 太平洋戦争突入前の空気を写した『仏印の思ひ出』 / 金森馨による舞台美術の前衛


Warning: getimagesize(http://nichigetu-do.deci.jp/img/info_thumb/1354296462985.jpg) [function.getimagesize]: failed to open stream: HTTP request failed! HTTP/1.1 404 Not Found in /home/users/2/deci.jp-nichigetu-do/web/navi/info/detail.php on line 146

■1年という時の過ぎゆく早さをもって、記憶に値するような仕事をしてこなかった自分自身の不甲斐なさに置き換えることだけは避けねばならないのですが、正直なところ、こんな早さにはとてもじゃないがついていけないやねと、愚痴のひとつもついこぼしたくなる2012年も12月1日となりました。ああ゛~ 仕事が終わらない~! しかも資料会大市、洋書会歳末市、そして明治古典会クリスマス大市と市場続き!- と、毎年この時期になると同じことを云っているのがまた情けない。こーゆー成長の見られない人間は放っておいて、さっさと新着品に行きましょう、新着品に。今週はすごくジミですけど。
写真やタバコカード、エアメールの封筒などをコラージュし、手書きで『仏印の思ひ出』とタイトルの記された手製の写真アルバム3冊と雑誌が1冊昭和15(1940)年にフランス領インドシナへ派遣された「仏印監視団」団員のひとりが残した詳細な記録となっています。巡洋艦らしき軍艦が並走する航海風景から、河内(ハノイ)、安南、高平(カオバン)など転地の先々で撮った、メインストリート、露天商、日本人商店等各地の繁華街風景、グラン・マガザンや音楽劇場、銀行、宿舎などの建物、現地での演芸会の様子、現地要人・関係者のスナップ、原住民の暮らしなどの写真を、所々長文のメモを添えてまとめたもの。
仏印というのは当時フランス領だったインドシナ半島のことで、いまのベトナム、ラオス、カンボジアのあたり。写真は、どこか怪しげな中国人、スタイル抜群のベトナム人女性とダブルの背広に身を包んだアジア系の若い男性から、半裸の原住民まで、この地域の民族的な複雑さを物語る一方で、露天商に至るまで比較的きちんとした身なりを整えていたり、コロニアル様式の瀟洒な住宅街と高級自動車なんていう優雅な風景まで出てたりと、全体にとても清潔で穏やかなイメージ。ちょっと意外なくらい。そもそも仏印到着以降、「仏国側ノ至リ儘セリノ歓迎」「仏国側接待振」など各地で歓迎されている様子が記されているのには少々疑問があったのですが、たったいまwikiで確認したところによると、この年、フランスで親ドイツ政権として悪名高いヴィシー政権が成立したことが、日本の仏印進駐を可能にしたということらしい。タナからボタ餅的幸運といえそうなこの日本の仏印進駐ですが、この直後からアメリカ、イギリス、オランダなどとの関係が悪化、とくにアメリカの対日制裁強化を招き、最終的に真珠湾攻撃→太平洋戦争へとなだれ込む結果となったのですから、一見のどかに見えるこの手製の写真帖、実はエアポケットのような歴史の一瞬を偶然にも捉えてしまっていたのかも知れません。


Warning: getimagesize(http://nichigetu-do.deci.jp/img/info_thumb/1354296479674.jpg) [function.getimagesize]: failed to open stream: HTTP request failed! HTTP/1.1 404 Not Found in /home/users/2/deci.jp-nichigetu-do/web/navi/info/detail.php on line 166

■2点目は劇団四季に草創期から関わった舞台美術家・金森馨の旧蔵品ポケットファイル2冊に収められた写真および印刷物で、1970年に画家・朝倉摂、デザイナー・高田一郎と3人で結成した「AKT」、「AKT」による作品展「太陽と月の劇場」、「金森馨 劇的空間展<勧進帳>」の印刷物と作品を中心とした写真の一揃いです。海野弘が「彼は劇場の壁をこえようとしているのだ。彼の空間幻想は劇場におさまりきれなくなっている」と評した金森馨等によるこうした活動を見ると、ダダカンが太陽の塔の下を全裸で走り抜けた1970年大阪万博をはさんで前後数年、日本ではあらゆる芸術がこぞってスケールの大きさと前衛性とを競っていたのではないかと、そんなことを考えたくなってきます。金森馨の旧蔵品としてはロイヤル・シェイクスピア・カンパニー他、ヨーロッパ視察旅行で集めた欧州著名劇団の舞台写真・絵葉書のファイル数冊と一括での販売となります。
金森馨の旧蔵品はダンボール箱で6箱。但し、そのほとんどがヨーロッパ視察で撮影してきたいわゆる観光名所を写した写真のポジフィルムで、確かに残す意味があまりあるとは思えないものでした。けれど、画像で紹介した資料を含むファイル2冊プラスαは残しておくべきものだろうというのが私の判断です。箱を開け、中を確かめ、絞り込みに数時間。この2冊を抽出することはそう厄介なことではありませんでした。そうした作業をする人も、こうしたものを残そうと云う人も、おそらく周囲に居なかったからこそ、商売のネタが古本屋にまわってきたわけです。が、しかし一方で、この先こんな調子で大丈夫か?という不安がよぎるのも事実です。つい数週間前の田中千代の旧蔵書など、落札した洋書を詳細に見ていくと、田中千代当人が滞欧当時、海外で購入した書籍、デザイン資料がほとんど。つまり、田中千代の歩みの極初期を知ることのできる資料です。しかもその興味がモードだけでなく、洋装の歴史、洋服の構造、民族と民族衣装、果ては身体まで、広く深く洋装文化に分け入っていたことを伺わせる内容で、私は思わず田中千代という人に敬意を払いました。例えばこのようにして田中千代その人に興味をもち、その足跡を辿ろうとする誰かが現れたとして、これから資料は散逸していくわけですから、それを辿る手掛かりのそう小さくない部分はすでに失われていることになります。断捨離結構。ですが、それが二度と取り返しがつかないものである場合は慎重に扱っていただきたい。これこそ大掃除を前にした古本屋の願いであります - というのは半分冗談として、豊かな未来が見込み辛いいま、これまでに蓄積されてきたはずの文化的遺産を痩せさせないことを、そろそろ真剣に考えるべきではないでしょうか。スケールの小さくなる一方の国でいま(無理に大きく強く見せようとする方が余程タチが悪いんですがね…)。


inquiry 新着品案内 / new arrival に関するお問い合わせ

お名前 *
e-mail address *
お電話番号 *
お問い合わせ 件名
お問い合わせ 内容 *
  * は必須項目です)

recent