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12/06/16 エイゼンシュテインの手記をめぐる冒険の中段あたりまでのお話


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「衣笠貞之助宛て エイゼンシュテインの手記」はエイゼンシュテインの直筆。真ん中の赤いペンと鉛筆で書かれた1枚がそれ。

「衣笠貞之助宛て エイゼンシュテイン直筆書簡」なるものが初めて市場に出品されたのは4月下旬のこと。一瞬、小店の札、その最も低い価格による落札が示された後、開札ミスで差し戻されました。止め札が見落とされていたために起きた、よくある行き違いだったのですが、痛恨の思いは拭えず、どうにか聞きだした止め札の価格は私が書いた上札でもまだ3倍近くの開きがあって、そこまで開いているといっそ清々しく、憑き物が落ちた心地がしたものです。荷主さんに一体どうした事情があったのか、それから僅か数週をおいて市場に再出品されたのが5月11日のこと、どうせまた止まるのだろうとどこかシラけた思いで見守るつもりが、しかし、入札札でみるみる膨らんでいく入札用の封筒を前にした途端、「一度は荷主以外入札者全員に競り勝った品物、何もみすみす他の手に渡すこともないじゃあないか」と、あっという間に本気、いや、正しくはムキになって、下札から上札まで、前回よりかさ上げした4枚札で臨みました。固唾をのんで開札結果を待っていた目に入ってきたのは、しかし「止めボー」。つまり、またしても止め札の前に敗れ去ったというわけです。二度に亘って、よりによって止め札で落札できなかった時というのは、曰く言い難い徒労感を味あわされるもので、その辺りは同業者でないと分からないかも知れませんが、それは兎も角、陳列台に両手をついて項垂れる私の方へとゆっくりとやってくるのはその時の市場で一番偉い会長さんの姿でありました。「あと1万5千円、1万5千円載せてくれれば買えちゃうんだけどな。どう、この際だからさ。買っとかない?買っとこうよ!よし買った!!」と会長さんに半ば押し切られる格好で、しかも、荷主さん思う壺のお値段でまわってきたのがこの紙ペラでありました。20世紀の映画史、いや、芸術史を語る上で、必ずや名前が挙がる内の1人であるに違いないエイゼンシュテインの直筆であります。こんな高額な紙ペラは初めてという紙ペラであります。さて。
さて。5月11日に落札してから今日まで一体何をしていたのかと云いますと、「真贋」の問題、これにつきます。出品時に画像向かって右の古い印刷物が添えられており、直筆とされる現品と印刷されているそれとはどう見ても同一、尚かつ衣笠生前に印刷されたものであることを考えれば、真贋の心配はいらないはずでした。ところがこの印刷物が一体どこから採られたものだか分からない。ま、しかしオートグラフで画像検索すれば簡単に確認できる時代、むしろそちらの方から確認すればよろしかろう … なんてことを軽ぅ~く思ってしまったのが運の尽き、本日に至る約1ヶ月を「紙クズ」と「宝物」とを両極に据え、その間を疾走するジェットコースターにでも乗っているかの如き気分で過ごすことになった次第です。

「エイゼンシュタイン、オートグラフ」の欧文複合検索で出てくる画像はたった数点。予想を僅かに下回ったばかりか、実際に出てきたのを見て呆然としました。いずれもファーストネームであるセルゲイのSをデフォルメした横に長い署名で、私が手にしている弧の部分に特徴のある署名と全くの別物です。別物なんて簡単に云っておりますが、落札品について直筆と謳いながら印刷だったような場合の返品は可でも、そこはプロの市場、真贋については返品理由として受け付けてもらえません。となると、万一署名違いでも判明した日には、この紙ペラにかけた執念も何よりお支払いしたお金も、まるっきり無駄。赤貧時代再来の感さえあるいまここでの金銭的損失なんて考えただけで髪の毛を掻き毟りたくなる。困った。が、困ったというだけで立ち止まっていては髪が抜けていくばかり。さらに画像検索を、今度は「サイン」に変えたり「ロシア語」にしてみたり、考えられる限りの検索でようやく辿りついたのがロシア語版ウィキペディアのエイゼンシュテインの項でありました。とうとうロシアまで来ちゃったか。としみじみ感じ入りつつ、肖像写真の下に明示されているサインを見ると、弧の部分に特徴のあるものとほぼ同一!… がしかし、依然として「ほぼ」。しかもこのサイン、このウィキ1ヶ所が発信元らしいし。どこまでも「ほぼ」。あくまでも「ほぼ」。となれば、今度は印刷物の方も洗ってみる必要に駆られ、裏面にも広告らしきものがあることから、台紙からいままさに剥がさんというところにかかってきたのが、映画専門古書店として夙に知られる稲垣書店のご店主からの電話でした。実はその前の月に、衣笠コレクションの売り立てから現在の収蔵に至るまでの経緯について、『古書通信』に詳しい原稿を書かれていたのを拝読、何点か、市場でお目にかかった折にお尋ねしたのを気にかけてご連絡を下さったのでした。ここで新たに判明したのが専門店の底力 ―― といった調子でこの1ヶ月の間のことを子細に記せばまだまだ全く終わる気配がありません。一言で云えば「いろいろあった。」ということになるゆくたてについては店頭で日月堂あるじにお尋ねいただくとして、兎も角現在判明したことを箇条書きにしておきます。


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□当品は「書簡」ではなく、ノートのような綴じられた形態から切り取ったものと推測される。裏面にも別の2名によるメッセージが記されているが、こちらの詳細は現在まで不明。□衣笠貞之助著『わが映画の青春』(昭和52年 初版 中公新書)の113Pに収められたロシア語・筆記体による「エイゼンシュテインの手記」と全く同一のものである。□従って、同書にも示された通り、昭和3(1928)年、1ヶ月に亘った衣笠のロシア滞在中にエイゼンシュテインから得られたもの目される。□袋一平氏旧蔵のエイゼンシュテインの書簡により、ハガキにはSをデフォルメした横長のもの、封書では円を組み入れたようなパターンと、2タイプの署名が認められる。□同旧蔵品と比較検討した結果、書き癖など含め、筆跡は非常に酷似していると云うことができる。□少なくとも日本の映画関係者で、エイゼンシュテインから直接書簡や手記といったものを贈られ可能性のある人物は非常に限られており、日本人に宛てられた直筆ものは極希少ではないかと推測される。□出品時に添えられていた印刷物については、戦前の雑誌『映画科学・芸術』の出版広告と何らかのからみがあるものと見られる。―― ここまで判明した「衣笠貞之助宛て エイゼンシュテインの手記」。お陰さまでただの紙クズではないことは、はっきりいたしました。価格については現在調査中、販売は来年1月に開催が予定されている『銀座 古書の市』目録を通じて行う予定です。ご紹介しておきながら、実際の販売までには時間を要し、大変申し訳ございません。いましばらくお待ち下さいますようお願い申し上げます。そして - ここに至る間、ご教示・ご高配を賜りました稲垣書店の中山さんご夫妻はじめ、ご協力下さいました方々に心より御礼申し上げます。有難うございました。
値段を付けて売る ―― 古本屋の仕事には、次なる本番が控えています。
聖戦 VICTORY ON THE MARCH - A PICTORIAL RECORD OF THE WAR OF GREAT EAST ASIS』は朝日新聞社が1942(昭和17)年に真珠湾攻撃1周年を記念して発行した英文グラビア誌。真珠湾から満洲、朝鮮半島などアジア各地、そして南方に至るまで、各地での戦闘とその勝利、占領後の風景など、新聞社が得られたふんだんな写真と、山口蓮春、向井潤吉、中村研一他による戦争画(カラー印刷)とで構成されています。枡形の体裁で、テキストのレイアウトなど非常に収まりよく見えるものの、プロパガンダ誌というのは国境を越え時代を超えてどうしてこうもみんな似たものになるのか不思議です。
■今週はこの他、限定版『和更紗紋様裂譜』、戦前映画洋雑誌『FILM FUN』合本および元装の1本口、現代美術・小畑多丘のアーティスト・ファイル(メモ帖サイズのドローイング多数)、本に関する本を中心に久しぶりに白っぽい本が8本ほど、明日には店に入ります。
「内澤旬子のイラストと蒐集本展」は連日、内澤さんのファンの方たちのご来場により、静かで温かな空気の中、順調に日々を重ねてまいりました。ご来場下さいました皆さま、本当に有難うございました。私も水曜日には会場で久しぶりに深呼吸、イラストも印刷関係のなかから2点、お気に入りのを見つけて買って帰ってまいりました。この企画も本日土曜日でいよいよ打ち止め。内澤さんファン必見のこの企画、まだご来場なさっていないみなさまには、駆け込みでのご来場を - まだ間に合う! - お勧めいたします!

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