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10/02/20 西洋との距離は如何にして縮んでいったか


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嘉永7年(1854年)官許発行『萬国旗鑑』。全て木版多色刷の標旗240図所収。開国前夜、さまざまな理由で日本に到来するようになった諸国の船を見分けるための懐中携行用の資料。のっぴきならない理由で刊行された書籍だが、稚拙な図版はむしろ微笑ましく見える。

■寒さとオリンピックのためか、普段以上に静かな一週間。即ちヒマ。で、ついこんなことを。MOON MAPとマイケ ………… いやいやいや。もちろん売るほどある仕事についても余念なく、ジェオグラフィカさんへの納品準備はじめ、進めるべきは進めております。来週は、ご覧いただくにもいささか面倒な具合になってしまっていた紙モノを、少しスリム化する予定。万一、気になるものなどお残しでしたら、お早めにご確認いただければ幸甚に存じます。何卒よろしくお願いいたします。
今週は、いかに小店が大市 = 古書界の王道・或いは専門分野が確立された商品と、ほんとうに縁遠い仕事をしてきたかを痛感した一週間でもありました。美麗かつ高額な商品が並ぶ大市よりも、乱雑で脈絡なく相場なんてなさそうなものに溢れた通常市を! と熱望するものであります。といったわけでご紹介する新着品3点は金曜日のいつもの市場の落札品からとなりました『萬国旗鑑』は文字通り、世界の旗図鑑というべきもので、江戸時代末期・嘉永7年(1854年)の官許発行。巻末の記載によれば、海外事情が伝わり始めた数十年前、五十余国について出したが刊行以後改変された旗もあり、また近頃やってくるようになった国や団体も多く、より詳しい情報が得られたので版を改めた、といい、「以下新増標旗四十八」と明記した上で増補したのと合わせ、世界各国・各地域の客船、商船、軍艦等種類別の標旗240図を所収。これら全て、多色木版刷となっています。1854年といえばペリー来航の翌年、日米和親条約締結の年。“此書ヲ懐ニシ時ニ望ンテ其商舶ト軍艦トヲ弁知セハ海防ノ益少ナカラス”とはやはり巻末に記載された一文で、ヘタウマ調の牧歌的な図版とは裏腹に、これがなかなか差し迫った要求の下に刊行されたもののようで、“入港のトキ大砲ヲ発シ然シテ旗ヲ立ルニ十字ヲカキタルハ軍艦ニ非スト云フ印ナリ”などとあるのは生々しいところ。思えば「これは一体何を描いてるの?」と思わず笑がこぼれる図版の稚拙さ加減は、旗に描かれた象徴に関する無知に基づくものであり(鷲に頭がふたっつ? 馬に羽? なんやソレ。描けんがな。)、当時の日本が置かれていた世界との距離の遠さを表わしているに違いありません。横浜港正式開港で鎖国に風穴が開けられたのは1859年、当書刊行より5年後のこと。


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明治5年(1872年)に制定された「大礼服汎則」に合わせて官版として発行された『大礼服制表並図』も全て多色木版刷。階位別に細部まで細かく規定した礼服の日本公式マニュアル。

■で、さらにそこから8年後には、泰平の江戸時代に終わりを告げ、時代は明治に。文明開化のご時世に欧化の波はいよいよ高く、ザンギリ頭が推奨され、軍や官僚から洋装も導入、これが洋服の普及の契機となって … というのはご存知の通り。そのきっかけのひとつとなったのが、明治5年(1872年)に制定され、格式の高い席で着用すべき礼服を階級によって厳格に規則化した「大礼服汎則」。『大礼服制表並図』は、この制定とともに「官版」として刊行されたいわば礼服用の公式マニュアルで、図版はここからのプレート。服制とあって、色彩も指定する必要がある一方、色彩を再現するのが困難な当時の印刷事情の関係から、こちらも全て多色木版刷となっています。着用すべき礼装を、帽子、側章、釦、上着、短胴服(ベスト)、袴(ズボン)などアイテム毎に、また、織柄の細かい縁章などは部分的にクローズ・アップして紹介。部分によっては寸法など細部に至るまで指定されています。黒の上に刷られた金色の深さや、ところによっては黒の上に黒を重ねてその素材の差異が分かるという、木版刷の見事さが随所に見られます。落丁・切り抜き多数のため歴史資料としてはお勧めいたしかねますが、木版の刷りモノとしてはモダン、ファッション・デザインとしてはシックなこれらのプレート、受け取り方次第でいかようにもお使いいただけるのではないかと。それにしても何故、厳格な規則を忠実に写した礼服の図版が、いまのファッション・ブランドのカタログや広告の数倍魅力的に見えるのか …… これもまた新興国の勢いだったのでしょうか、いまより良い時代だったとは思わないけれど。


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木村利美著、朝野方夫装、昭和5年(1930年)発行初版『機械と芸術運動』。巻頭に置かれた図版や装丁は板垣鷹穂の著作の影響か。左翼思想に基づき著者が編集・翻訳・執筆した機械主義芸術論集。

さらに時代は進んで文明開化から半世紀、それまで船で何カ月もかかっていた欧化の大本・欧州への距離はシベリア鉄道経由で数週間にまで短縮され、となると依然、どこか欧化気分の残る日本には政治経済思想文化あらゆる尖端情報がほとんど同時に輸入され、みるみる吸収されていく、という状況のなかで生まれたおびただしい書物の内の一冊が『機械と芸術運動』昭和5年(1930年)発行の初版著者は東大の同人誌として発行された『大学左派』や左翼系書籍の翻訳で僅かに名前を残す木村利美装丁はやはりプロレタリア美術の朝野方夫。テキストは“蔵原惟人、板垣鷹穂氏等によつてなされた研究を、ボクの僅かな知識で整理したに過ぎない”と本人が謙遜してみせる木村のテキストの他に翻訳が3篇、巻頭には未来派から抽象派、バウハウスからスカイスクレーパーまで、こちらも板垣氏の著作を整理したかのような内外“尖端”図版多数。左翼思想+前衛芸術の内外尖端を寄り集めたような一冊ですが、“単に、世界的な最尖端的現象を寄せ集めて来、そしてそれを解説的に並べたて分類することは語学の力と資力さへあれば、誰にだってできることだ。困難は、われわれ自身が、新しい建築を、築き上げて行くことにあるのだ。”という著者の言葉によって、文明開化とは遥かに遠く、むしろ2010年に近い現代性を持ち得ているように思われます。いや、むしろ、現在は1930年代まで後退していると見るべきなのかも知れません。世界中のどこであろうが、あらゆる分野のさまざまな性質の情報に瞬時にアクセスでき、テキストのことごとくがデータ化され、“寄せ集め”のこれほど容易い時代はかつてなく、しかしそこから“新しい建築”を築こうという意思はあるのか。過去とは常に現代を問うてやまないもののようです。 今週はこの他、製本美術関係ビジュアル本4冊手製本関係洋書2冊戦前左翼系書籍4冊襖紙見本帖が3冊店に入荷、他にジェオグラフィカさんに直行予定の洋書3本分などもいったん店に入荷となります。

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