■お待たせいたしました。月末の定番、沼辺信一氏のご連載「バレエ・リュスと日本人たち」第6回分を10月30日付でアップいたしました! 山田耕作におけるバレエ・リュス体験を追跡した「ベルリンの青春」第4回目では、山田の意外な行動に驚かれる方も多いはず。ニジンスキーの「牧神」で熱気に包まれた劇場から夜のベルリンの街へ。山田の視線と行動とを、感情を差しはさむことのなく精査していく沼辺氏の記述は、むしろより強く若き日の山田の姿を浮かび上がらせるところがあって、読む者に迫ります。当初予定の紙数を大幅に超えて深められた山田耕作のバレエ・リュス体験を、みなさまも是非ご堪能下さい。
■三週間ぶりとなった市場で。「HPが更新されてるんで、とりあえず生きているんだと確認しました。」と仰るご同業が数人。なかには「更新されなくなったら店に行ってみなくちゃと思ってました。」とまで云って下さる方もいて、つまりは安否の確認にもお役立ちだったんですなこのHP …… 今週もとりあえず生きてる証拠に恒例の新着品のご紹介です。最初は恩地孝四郎の『博物志』(昭和17年・玄光社刊 初版)。タイトルが示す通り、「植物」「動物」の二章に、極短い「ZOO」と題した章を付し、それぞれ随筆と恩地自身が撮影した写真とで構成されています。『飛行官能』刊行から8年、おそらくは戦時下ということもあるのでしょう、『博物志』にはテーマそれ自体に『飛行官能』時とは大きく隔てられた自閉とか屈託の影を感じさせられますが、本のノドと地の側に余白を多くとった文字組み、写真毎にサイズを微妙に変え、
ものによっては組写真をあしらうなど、細やかな配慮が行き届いたデザインはさすが恩地、モダンの粋は衰えていません。画像は当書中「タマムシ」のページ。“偶然タバコ缶の上においたのが面白かったので”撮った写真に添えられた随筆は、早くに喪われた田中恭吉の回顧に始まり、失われていくものへの哀惜を綴るものとなっているのは、時代への静かな抵抗とも読めそうです。
■経本仕立て、9×13cmの小さな「ALBUM」を開いてみると、戦前の商標がたくさん貼り込まれていました。スクラップ帖ほど、旧蔵者のセンスが分かってしまうものはなく、片面に名刺大の商標ばかりを細工など施さず、おそらくは商標自体を厳選した上で貼り、片側には小さな商標部分だけを切り抜き、構成にも配慮して貼り込んだこの「ALBUM」の旧蔵者はなかなかのセンスの持ち主、裏表紙に貼られている「4A K.UCHIDA」の正体が気に掛る一冊…「…なんていうワケの分からないものより分かりやすくて一般的にウケものを買わないとダメでしょうねぇ、折角少しは入りやすい店になったんだから」という親身のご指導を移転以来たったの数週間のうちにどれだけ頂戴してきたことか。仰る通りだと思い、「そうそう。やっぱ売れ筋。売れ筋ですよ。」と言い聞かせて市場に復帰………
■………したはずなのに。よりによってこれって何?どーゆーこと? 『THEORIE DE TISSAGE』。全頁テキストは手書きで流麗なカリグラフィー、楽譜かと見紛うものあり・幾何学に通じるものあり、の、これまた手書きの図面・図解…というのでついつい買ってしまったフランスの『機織り法』という一冊。ところどころ貼り込まれた生地見本から見て、絹織物の奥義書といったものらしく、非常に込み入ったセッティングから糸の運びまでを、相当数の柄ゆきに応じて解説した本-ではないかと。思われます。全て手書きでありますから、いうまでもなくこの世に存在するのはこの一冊きりの貴重書。フランス語が読めればいまは失われてしまった技術が記されているやもしれず、研究書としても貴重。なはず。いやしかし。正直なところあんまり綺麗なんで買ってしまったわけで。これって一体どんな人が買って下さるのか。私にもさっぱり分からない。今週はこの他、恩地孝四郎編・木版画入『日本の花』、『NIPPON DESIGN CENTER 1960-1965』、白っぽいところで芸術・人文関係書約20冊などが新着品となります。