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22/09/02 謎のモガ人形と図案新商売と禁酒運動について

■先週は更新をさぼってしまいました。実はこの間、縞帖3冊春木座を描いた肉筆ポンチ絵のまくり、大正時代~昭和初めの女学生の日記と絵、地方素封家と思われる家から出た昭和初期の日記帳6冊下村玉廣画集『むかしばなし』(木版画入り)などなど、 一体何を売りたいのかますますとり散らかっていくなかで、先週は久しぶりに 「ふっふっふっ料理してみてやがれ」と云われているようなごつごつごりごりした商品の入荷もあり、がしかしさすがに時間がかかるものが多く、先週は何から紹介すべきかと考えたところで時間切れとなりました。
先週のこの状況に対する反省に立って考えた結果、今週はとりあえず手近な曲者(品物ではなく曲者)からご紹介することにします。

店内入り口の陳列を初秋の仕様に変えました。みる人によって印象は多少変わるかも知れませんが、物思いにとらわれ思わず立ち止まった女人像といったところでしょうか。
縦に細長い女性の人形と云えば陶製の「夢二人形」が夙に有名ですが、この度、小店においで下さった女人像は生成りの木綿布製。腰から下に仕込まれているワイヤーによって自立できるように作られています。
目鼻は立体的につくられ、断髪の髪型やセーラー服を思わせる洋服の襟のような部分などには、少し織の異なる木綿布が、ざっしりとした糸の運びで仕付けられています。
腕の長さとともに、この人形を印象深いものにしている傾いた首は、当初からの造形ではなく、首の根本で固定していた糸の一方が弱ったことによるものとみられます。
全体のバランスや髪型、洋服などから、夢二人形同様、大正から昭和初期のモボの時代のものと思われますが、作者も不詳なら、一体何用あっての造形なのかも不明。深まる謎もまた秋という季節に相応しく、ご来店下さる方たちを静かにお迎えいたします。 

肉筆図案大観頒布会編纂、昭和11年7月15日頒布『配色配合構成之研究 肉筆図案大観』。箱入り・横長の綴りの扉に置かれた一文によれば…
「本肉筆図案ハ現代一流ノ画伯図案家ノ染筆ニカカルモノニシテ東都百貨店ノ委嘱ニヨリ粉本ノ構想・配色ニ一週間以上ト壹枚金拾円ヨリ拾数円ノ画稿料トヲ以テ画カレシモノナリ」
「本肉筆図案ハ原画稿料ヲ以テ通算スル時ハ壹冊優ニ「数百円」ノ大金ヲ要セルモノナレドモ本会ハ百貨店ノ使用後入手セルモノナレバ此処ニ「金参拾円也」ヲ以テ一般研究者ニ頒布スルモノナリ。」
… ということはつまり、百貨店で使い終わった有名画家・デザイナーによる図案を、二次流通させることで当会ならではの格安価格でお分けしますよ、というしろもの。持続可能な図案の利用とでもいいましょうか、少なくとも小店ではこれまで見たことのなかったユニークな発想と経緯を経てつくられた図案集です。
上製の表紙に紐で綴じられた図案は50枚。顔料の載り方、刷毛目、ものによっては顔料の下に鉛筆の線が残っていることなどから考えて、「肉筆」というのはあながち誇張表現ではなく、一部、ステンシルなど作業を多少簡略化する手法が併用されていたとしても、図案の多くは実際に筆で描かれたものとみてよさそうです。
昭和初期の物価は、現在のおよそ2千倍といわれることから、百貨店がそれなりの大家に発注した時の稿料は1図案2万円以上。それを1冊50枚・30円で売るというのですから確かに安い。安いといえどもいまなら6万円の図案集。安くはないだろうと思うわけです。しかも肉筆だとなればそう数は作れない上に原価はどの程度かかったのか。考えれば考えるほど、売れなかっただろうなあ、採算とれなかったんじゃないかなあと思うわけです。
企画主旨は面白いもののアイディア倒れだったのか、書名で検索しても編纂者名で検索しても情報はひとつもひっかかってきてくれません。芸艸堂や内田美術書肆、マリア画房など、図案集の版元が刊行した図案集と比べると一味も二味も異なる珍本で稀本。どうやらその点には間違いはなさそうです。
あ!肝心のデザインについて。全体に、2022年現在の感覚で銘仙のキモノを好まれる方には、これ以上の図案集はないだろうというモダンで大胆なデザインばかりです。 

日本にも禁酒運動があったということだけは知っていましたが、こんなものがつくられていたとは。『酒飲乃成行』英分タイトルはまんま『The drankard's progress』。当品は木版刷り6枚続きの内、2枚目が欠けた5枚。発行年その他刊行情報が刷り込まれたカットされていますが、明治21(1881)年、キリスト教を基本とする婦人団体・東京婦人矯風会が刊行、同会の主導者の一人、佐々城豊寿が描いたとされる教育画です。
6枚12図で描かれる物語の概要はというと…
毎日決まって午後6時には帰宅し家族団らんを楽しむ真面目な一会社員が、悪友に勧められて飲酒の習慣を覚えると次第に酒癖が悪くなり帰宅は決まって深夜、会社勤務にもつかなくなって日中から飲み歩く日々のなかで貧困に転落、金がないので酒を飲ませる店の前をただうろうろし、友におごってくれと頼むも相手にされず、ついには無銭飲食に走って袋叩きにあい、家を失い友は離れも破れ傘ひとつで犬の餌を奪って食べ、強盗追剥を為し、酒のせいでやがて精神を病み、最後は路上で餓死する …… という酒による転落のさまをこれでもかと描き、禁酒運動の啓蒙教育ツールとして使っていたようです。
家庭の風景も酒場も街も、人々の服装まで、画風は完全に西欧の風俗。佐々城豊寿画とは云いますが、元絵は海外の禁酒教育で使われていた教材にあったものではないかと思われます。
そもそも佐々城豊寿という人、画家ではなく明治の女権運動家として鳴らした人。中村屋の相馬黒光は姉の子だといいます。禁酒運動の他、廃娼運動、婦人参政権についても運動に携わりますが、Wikiでのそれほど長くない解説の範囲でも波乱万丈の人生が伝わってきます。ご興味のむきにはご参照いただければと思います。
タバコの次は酒との声も聞こえ始めた昨今、過去の禁酒運動関係資料はこれから面白くなっていくかも知れません。

■今週の斜め読みから。
書名運動も こちらで 続いています。
総括はいまこのあたり。まだまだこれから。
だというのに。こういうことが
できることは 根気よく 息長く 深く 考え続けことですね。




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