19/12/07
土
近代日本の百貨店2題 - 大丸と白木屋から
■またしても一言の断りもなく更新1回休んでいるうちに12月に入っしまいました。来月の今頃は松屋銀座8Fで「第36回 銀座 古書の市」の売り場に立っているのかと思うと焦るばかり、ただいま全力で「古書の市」の会場出品用の商品の準備にかかっておりますが、まだ終わりが見えておりません。
来週、店は通常の営業スケジュールで開けますが、店内をますます混沌を極め(とほほ)ゆっくりご覧いただくのは相当難しいものとお考えいただければ幸いです。
年内残すところあと3週間。こんな調子で年が過ぎていくことになりそうです。どうか悪しからず!
■今週の新着品から。
1点目は 手彫りのレリーフをあしらった立派な木箱に収まる写真のオリジナル・プリント36枚。箱の蓋の内側に貼り付けてあるラベルには「THE WORLD THROUGH LENSES」というタイトルと「SOUVENIR PHOTO SKETCHES OF SHOTARO SHIMOMURA'S TOUR ROUND THE WORLD 1934-1935」というサブタイトルの記載があります。
下村正太郎は明治16(1883)年生まれで後に大丸百貨店の当主となる第11代下村正太郎その人と見てよさそうです。
オリジナル・プリント36枚から成るこの写真集は、昭和9~10(1934~1935)年に視察も兼ねて世界一周の旅に出た下村が、自ら撮影してきた写真をおみやげがわりにして、きみー国挨拶の際などに関係者に配ったものとみられます。
タイトル題箋を全く同じくしながら木箱をタトウ紙へと軽量化し、写真点数を12点まで絞り込んだ別ヴァージョンも存在するようで、今回入荷した木箱ヴァージョンは、より限られた重要な関係者にのみ配られたものではないかと思います。
写真には全点、地名と被写体とを記載した薄紙がかけられており、少なくともフランス、イギリス、スコットランド、フランス、イタリア、オーストリア、スイス、オランダ、デンマーク、北米各地、エジプト、インド各地と、広汎な国々へと赴いたことが分かります。
写真の腕はなかなかのもの。画像では質感まで伝わらないので大変残念なのですが、風景の切り取り方と構図、白と黒とのコントラスト、視線を向けた先の対象物など、確かな写真の腕と優れたセンスが光ります。店舗や私邸の建築にヴォリーズを起用したのは下村の意向だったとされますが、なるほどそれも充分頷けるお話し。
アメリカのメーシーやワナメーカー、パリのボンマルシェなど、百貨店の写真でさえ - 記念品・おみやげとして写真を選んだ結果なのかも知れませんが -いかにも説明的な視察写真といった体のものが1点もないのは見事。百貨店関係資料を離れ、昭和初期のアマチュア写真家の作品集、或いはモダニズム関係資料として、或いは福原信三との比較や実業家の渡航体験などなど、さまざまな捉え方が可能な写真ではないかと思います。
いや、そんなまわりくどいことは抜きにして。
端的に云ってカッコイイ。そんな写真集ではあります。
■下村正太郎が率いた大丸は、江戸時代後期、呉服商から出発し、両替商を兼ねていた名古屋の「大丸屋」が出発点となり、近代的な業態へと改革に乗り出したのは1908(明治41)年のこととされていますが、新着品2点目はほぼ同時代、同じく江戸三大呉服店から百貨店へと転換を果たした白木屋(現在の東急百貨店)の明治35(1902)年1月1日を発行日とする営業案内です。
明治も後半になっての発行ですが、センスはまだ江戸~明治初期のまま、非常に古典的なグラフィック表現が随所にみられる他、お正月特別号の意味合いか、こちらも随分古風な意匠ではありますが、巻頭にキモノのデザインを紹介した多色刷木版図を12図も収めています。
14.5×11cmという小体ながら、その他読物から価格表に至るまで全頁文字組と装飾部分とで色の異なる2色刷という贅沢。贅沢ではあるけれどまだまだ前近代的。百貨店の印刷物の表現が、と云うことはつまり消費者の嗜好と志向が全近代から近代へ、現代へと変わっていく分水嶺というのがどのあたりなのか、俄然、気になってきました。
■図らずも「逃げ切った」という言葉がセンセイのみなさま(反社のみなさま?)の胸の内を雄弁に語っていると思うんですけれどねえ。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191203-00010006-nishinpc-pol&fbclid=IwAR3KFHpUxq8rlRs7CxV6NbYjlCN7xWX8NdbCxrhv-iaGuIrt5P3nAAldGpg
誰か復元してくれないものか。
https://mainichi.jp/articles/20191204/k00/00m/010/077000c?fbclid=IwAR3mKHrH6ZZxYzLSiB8z0zAWHDYWxJ6EadqqhuykySUJJ_ikmawMsdFkHiA
かと思えば復元可能なものが流出したり。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53033300W9A201C1MM0000/
なんともはや。美しい !? ニッポンの師走である。 いやはや。